君にさよならを(1/2)
「ずっと好きだったの…!付き合ってください!」
「…すまんね。俺は誰とも特別な関係になるつもりはないのだよ」
小さく震えるその華奢な肩をなんとも思わずにただ眺める俺は、すごく冷たい奴だと思う。
「…ごめん。わかってた。ただ、卒業前に気持ちだけは伝えたくて」
「君の気持ちは嬉しく思う。ありがとう」
零れそうな涙が溜まった瞳が、その場凌ぎの甘い言葉を吐く俺を映す。
そんな自分自身を見たくなくて、涙を人差し指で掬った。
「…うそ…」
「ん?」
「東堂くんは、気持ちも受け取ってくれてないでしょ」
思わず動揺してピタリと止まった己の指先を見る。
「そういうのって、ちゃんと見てたら分かるよ」
目の前の、俺にとっては名前もあやふやなその女子は、踵を返して走り去っていった。
俺は宙ぶらりんになったその腕を力なく下ろす。
俺の痛い所を見抜いたあの子は、一体どれだけ俺のことを見ていたのだろう。
この瞳に少しも君のことを写していなかった俺のことを。
不特定多数の女子に騒がれるのは良い。
だけど、1人の女子に強い想いを抱かれるのは得意じゃない。
嫌なんだ。
自分を見ているようで。
痛いんだ。
思い知らされるようで。
「東堂ォ、まァたコクハクかよ」
「荒北か」
不機嫌そうな声に振り向けば、ケッと忌々しそうに顔を歪めた荒北が鞄を肩にかけて立っていた。
「まぁな。俺の美貌がまた1人の女子の心を捕らえてしまったというわけだよ…」
「うっざ」
「わっはっは!妬くな妬くな!」
「妬いてねェ!」
いつもの軽口の言い合いが始まる。
正直ほっとしている。
いつもの俺だ。
「でも、おまえ、なんで誰とも付き合わねェの?」
図書館へ向かう道すがら、荒北からの質問に心臓が鳴る。
「なんでと言われても…。俺が好いていないのに付き合えんだろう」
「付き合ってみてから好きになるってパターンもあンじゃねェの?」
「それはないな」
「あ?なんで言い切れンだヨ。
わっかんねーだろ、ンなもん、付き合ってみねェと」
「ないものはないのだよ」
「ハぁ?!」
図書館に入ると、大声で叫んだ荒北に咎めるような視線が集まる。
さすがの荒北もバツが悪そうに口を噤んで、この話題は打ち切りになった。
各々席についてそれぞれの作業にとりかかる。
荒北が横で難しい顔で参考書を開いて舌打ちをした。
インターハイが終わり、季節は飛ぶように過ぎていく。
いよいよ受験間近。
受験が終われば卒業だ。
ここ最近は女子からひっきりなしに呼び出しがかかるようになっている。
皆、卒業に向けて想いを整理したいのだろう。
しかし、今日の女子は鋭かったな。
つい先程の出来事を思い出しながら、頬杖をついて窓に映る自分の顔を眺める。
最近想いを告げられることが多いせいか、どうしても昔のことを思い出してしまう。
ふと自分の顔の向こう側、オレンジの色が目に入る。
金木犀か。
いつからだったか。
気がついたら、その姿を目で追っていた。
無邪気に捕まえて、君の香りを吸い込んだ。
彼女からはいつも、金木犀の甘い香りがした。
「好きなんだ、金木犀」
そう言ってふんわり笑ってみせる君を、どれだけ手に入れたいと俺が思っていたか君は知らないんだろう。
むせかえるような金木犀の香りと、彼女の幸せそうな顔。
忘れもしない、あの日の記憶。
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