春は待ちぼうけ(3/3)



1年最後の冬はこれといって何事もなくあっという間に過ぎ、明日は3月1日。

私と御堂筋くんは選択する学科の違いから、やっぱり違うクラスになることが決まった。
光太郎先輩は目指していた難関校合格を果たし(思えば受験前にあんなに後輩に付き合っていての合格と考えると改めて凄い)、明日の卒業式を待つばかりだ。
卒業式は在校生も出席を求められるため、光太郎先輩を見送れる。

あの始業式の日の朝の私の予感は当たり、私と御堂筋くんの教室での距離感は始業式前と変わらずのためクラスの中で話すことはない。
それでも、何かの折ふとした時に目が合えば、眉をあげたり、微かに首をかしげたりするくらいのアクションはある。

そういうことももう、なくなるわけか。

そう思うと少し寂しい気もする。

授業中、ふと黒板から逸らした視線の先に御堂筋くんの姿を見てふっと息を吐いた。
ほぼ1ヶ月後にはこの風景もない。

「ハイ、ちょっと早いけど、今日はここまで」

先生の一声で、生徒たちが一気にざわつく。
私も引きずられるようにして机の上を整理した。




「御堂筋くん」
「おん」

例の如くあの階段で昼を食べながら、遠くに見える桜のピンクを見た。
結局この階段でほぼ1年間昼を過ごしてしまった。

御堂筋くんのモヒカンがふわふわと風に揺れる。

「光太郎先輩、明日卒業でしょ?」
「残ってもろたら困るわ」
「そうなんだけどさ…」

御堂筋くんの皮肉を躱して、先を続ける。

「明日は部活の皆で見送り会かなんかするの?」
「あ?あァ…ザク共はなんやする言うてたなァ」
「え、御堂筋くんは行かないの?」
「くぅだらん。ぜぇったいに行かん」

御堂筋くんがケッと言い放つのを見て苦笑する。
私もあまりそういうのは得意ではないし意味が見いだせない方の人間だから、御堂筋くんの言わんとすることも分からなくもないけど、ここまで清々しく言い放てるのは凄いと思う。

「そうか…じゃあ卒業式の後は先輩忙しいね」

考えてみれば、この学校に友達と呼べる相手は今のところ私には光太郎先輩しかいない。
御堂筋くんは?と考えてみれば、なんとなく御堂筋くんは出会った最初から友達とはどうしても思えなかった。
どう考えても友達の距離感ではない。

とにかく、そのたった1人の友達が卒業してしまう。
さすがの私でも感慨深いものがあるし、最後に面と向かってさよならくらいは言いたいなと思っていたのだが。

「何ィ?キミィ、石垣クンにコクハクぅでもするつもりか?」

桜の木の下で“ずっと好きでしたァ”なんて言うてェ、と御堂筋くんが肩を細かく動かして意地悪く笑う。

「コクハク…?あぁ、告白?いや好きとかは言わないけどさ…。
こんな私と1年間唯一の友達してくれた先輩に、私だって伝えたい感謝くらいあるから」
「友達ィ?なんやそれは、キモい。キミそういうタイプやったァ?」

うえっと舌を出して不快な顔でこちらをみる御堂筋くんを見て、なんだ今日はやけに突っ掛かってくるなと首を傾げる。
部活の中ではかなりえげつないことをしていることは知っているが、普段の日常生活の中では無駄にそういうことはしない人なはずだけれど。

「どうしたの、御堂筋くん」
「ハァ?」
「なんか嫌なことでもあった?」
「今の話の流れでなんでそうなるん」
「いや、だってなんか、怒ってるじゃん」

私の一言に口をパクパクさせた後言いたいことが迷子になったのか、静かに前を向いて、怒ってへんわ、と一言言ったきり黙ってしまう。
私はよく分からない御堂筋くんの行動にため息をついて、紙パックのカフェオレを飲み干してぺちゃんこにした。

「あっ!もしかして!光太郎先輩が卒業するの寂しいとか?」

噛み潰したストローを離して、閃いたことを口にしてみる。
ぐるんと御堂筋くんの首がすごい勢いで回り、大きな目が更に大きく見開かれる。
こわっ!と思うのと同時に、あ、やばいかも、と直感が働く。

「…ハァァ?!なに言うてんの?」
「や、機嫌悪いのってそれでかなって…」
「アホか!そないなくだらん理由で機嫌悪くならへんわ!」

そ、そうだよね、ごめんごめん、と御堂筋くんの剣幕に慌てて謝るが後の祭りで、勢いよく立ち上がると、教室戻る!と言い置いて、スタスタと行ってしまった。
いやでも、やっぱり機嫌は悪いんじゃん、と心の中で口を尖らせる。

fin