桜の頃(1/2)



結局その後御堂筋くんの機嫌を直す方法は見つからないまま一日が終わった。
目が合っても逸らされるし、メッセージを送っても無視されるしで為す術もない。
私にはやっぱり彼がよく分からない。
そんなに怒るポイントがあの会話の中にあっただろうか。


「喧嘩?御堂筋と?」
「そうなんです…」

電話越しに光太郎先輩の驚いたような声が聞こえる。
あの御堂筋が誰かと対等に喧嘩なぁ…、と考えるように先輩が言った。



たまたま光太郎先輩からかかってきた電話で、元気ないな、と言い当てられてしまい、今日の昼の顛末を話す羽目になってしまった。
この人は変なとこ鋭くて誤魔化しがきかないから、なぜか私はいつも嘘がつけない。
ベッドに倒れ込んだまま受話器にむかって、ため息を吐いた。

「よく分からないですよ、私は」
「なるほどなぁ…御堂筋も言葉足りんとこあるから」
「言葉足りないにも程がありますよ」
「まぁなぁ…でも話聞いとると、なんや、むしろ名前が御堂筋のこと分かりすぎとるとこがあるからこその喧嘩のように思えるけどな」
「えー?どのへんが?」
「いやだって、機嫌悪いんは多分図星で、そこ突かれて更に機嫌悪くなったんやろ?」
「あーまぁ…」
「御堂筋の感情はちゃんと読み取ってるんとちゃうか」

そう言われてみて、確かに、と納得する。

「問題はその感情の背景にあるもんが検討違いやったってことやと思うで」
「そこがわかんないんですよ。
なんでそこで検討違いしただけであんなに怒るんです?」
「怒るというか、多分…」

八つ当たりとちゃうかな、と光太郎先輩が言って力なく笑った。

「…わからない…」
「うーん…。そやな、ちょっと話変えよか。
名前にとって御堂筋て、どんな存在なん?」

急に何を言い出すんだと思いながらも、その問いを考えて答えがでない。

「…分からないです…」
「友達か?」
「ううん」
「じゃあ知り合い?」
「いや、もっと近い」
「…恋人?」
「それはありえないでしょ!」

光太郎先輩の爆弾発言に心臓が大きな音を立てて、ガバリと起き上がった。

「ハハ、そない慌てんでも、分かってるて」
「なんですか、光太郎先輩まで意地悪言って」
「すまんすまん」

尚も楽しそうに笑っている声を耳元で聞いて、心臓を落ち着かせた。
恋人って、そんな、その前にもっと色々あるだろうに、とくるくると回る思考に、光太郎先輩の優しい声が響く。

「ただの友達よりは近い存在?」
「…そう、なんでしょうか」
「いや、俺に言われても」

光太郎先輩の返答を聞いて、そうだよな、と思う。
ちゃんと自分の言葉で語らなければ。

「嫌われたくはないなと思いますし…でもそれは友達にも思うことでしょう?
御堂筋くんが考えてること知りたいなぁって思ったりはするかも。
それは友達には思わない気がする…。
でも、それもなぁ…あの不可解な人物になら誰だって、何考えてるんだ?コイツって思うんじゃないですかね」

ここ最近ぐるぐると考えていた、私の御堂筋くんへの考えを訥々と話してみる。
結果自分の中では何も纏まっていないけれど。

「そやなぁ…まぁ一つ言えるんは、そないに考え込むほど、御堂筋のこと深く知りたいて考える奴はそうおれへんとは思うで。
それは特別な感情なんと違うか?」
「そう、かもしれません…」

特別か、と思う。
その枠に入れてしまいたくはないと思っていたのに。
でも、自分でもそれは気がついていた。
そう彼は紛うこと無く、特別、なのだ。
否定したって、入ってこないでと、拒絶したって、気がついたらあるような。

「…まぁ、曖昧なモンはハッキリするまで曖昧にさせとってもええんやないかと思うけど」

私の思考を光太郎先輩の声が遮る。

「そんなもんですか?」
「おん。無理にハッキリさせでんも、いずれ分かる日がくるやろうし。
まぁ、でも少なからず、名前は御堂筋に何かしらの特別な感情があるわけや」
「んー…」
「て、ことはや。それは御堂筋もおんなしなんとちゃうかな」
「…それはちょっと、飛躍してません…?」
「そうやろか。相手に特別な感情がある場合、その人と仲良くするてことはもう片方にもそれ相応の感情があるって考えてええんやないかと思うけど」
「別に仲良くは」
「いや、あの御堂筋とやで?
普通に会話したり、飯食ったりて、めちゃめちゃ仲ええと思うよ」

そうなんだろうか?と、あまりにも当たり前になっていたことを思い返して、首を傾げる。
邪魔にならないから傍にいても何も言われないだけだと思っていた。
私にとって少なからず特別でも、彼がそうかというのは別の話のような気がする。

「まぁ、とにかくや。そんなちょっと自分にとって特別な相手が、別の相手に特別な感情持ってるってなったらどうや?」
「どうって…別にいいのでは…?」

戸惑いながら返した私の言葉に、光太郎先輩がため息を吐く。
そして物分りの悪い子供を諭すように、ゆっくりと優しく言葉を続けた。

「普通はなそういう時、寂しなったり、悲しなったりして、それで機嫌悪なったりするんやよ」
「…」

じゃあ御堂筋くんは、私が光太郎先輩に特別な感情持ってるって思って怒ったってこと?
ていうか、それって…。

「まぁ、有り体に言えば、ヤキモチやな」
「やっ…?!」

馬鹿なと思いながらも衝撃で言葉が続かない。

「かわええとこあるんやなぁ、あいつも」

光太郎先輩がクスクスと笑う。

「い、いやいや…それはない、と思います」
「なんで?分からへんやろ」
「や、だって」
「じゃあ、」

ちょっと試してみるか?

畳み掛けて否定しようとする私の言葉を、光太郎先輩が遮った。