会遇(1/2)
新学期がはじまった。
晴れて高校2年生である。
「苗字さん、あの、私」
名前ちゃんって呼んでええかな?
前の席の女子が私を振り返って、頬を染めている。
私はその突然の状況に固まって、その姿を見つめた。
新しい教室で充てがわれた席は、窓際、一番うしろの教室の隅の席。
前に御堂筋くんが座っていた位置と同じだ。
あれ、と窓の外見つけた黒髪を目で追うが、勘違いだったと気がついて頬杖をつく。
つい御堂筋くんの姿を探している自分が情けなくなって、ため息を吐いた。
気が付かない間に、御堂筋くんの姿を見つけて存在を感じることが習慣になっていたらしい。
いつの間にか独りじゃなくなっていたことに、今更になって気が付く。
制服のポケットから携帯を取り出してみるが、勿論メッセージはない。
何の期待を…。
吹き込んでくる春の生ぬるい風に、横髪がサラサラと揺れた。
「名前ちゃん、名前ちゃん」
名前を呼ばれて視線を前に戻す。
「委員会何するか決めた?」
「図書かなぁ」
図書かぁ…と難しい顔をするその顔を眺める。
彼女はクラス替えのその日に声を掛けてきた私の前の席のクラスメイトだ。
彼女とは1年の時も同じクラスだった。
“…自由に呼んでくれていいけど…”
“よかったぁ”
“…でも、なんで急に。1年の時も同じクラスだったよね?”
“本当はずっと話しかけたかったんやよ!
でもなんか、話しかけ辛い雰囲気やったし…。
せやけど、今の名前ちゃんなんか柔らかくなったっていうか、今なら話しかけられそうと思って”
2年生初日に彼女と交わした会話を思い出す。
彼女とはその会話以来クラスの中で1番親しいクラスメイトになり、彼女の繋がりでその他に話をするクラスメイトもできた。
「なになに、なんの話ー?」
「委員会どうしよかぁって」
「あーそれねー」
「名前ちゃんは何にするって?」
集まってきた数人の女の子達の会話の中、ふいに振られた問いに適当に答えて笑う。
煩わしいと思っていた友達関係もできてしまえば、そう悪くはないもので。
女の子のグループってもっとしがらみの多いものだと思っていたけれど、この子達は割とその辺はドライで一緒にいやすい。
どっちかというと、鳴子と同じような空気感の子達だと思う。
「図書かぁ。昼休み潰れるのがなぁ」
「えっそうなの?」
初めて聞く情報に思わず顔をあげた。
「そうやよ。放課後もやし。
だって図書の貸出は図書委員の仕事やろ?」
そう言われれば尤もか、と頷いた。
なんとなく1年の間は暗黙の了解になっていた、あの御堂筋くんとのお昼の時間は今後も続くのだろうか。
2年生が始まって半月ほど経ち、私はあの階段でお昼を食べているが、今のところ御堂筋くんはまだ一度も姿を見せていない。
あの場所で過ごす時間がなくなってしまったら…と、今度は私が唸る。
「まぁでも輪番制やって言うてた気がするから、そんなにしょっちゅうやないとは思うよ」
グループの1人の子が笑って教えてくれて、まぁそれなら別にいいかなと思う。
図書委員になれば、好きな本の申請や委員会活動中も本を読むことができたりと、魅力は沢山だ。
去年のような何の楽しさも見出だせない委員会をやるのは御免だった。
「そういえば、名前ちゃんて昼休みいっつもどっか行くよね」
「もしかして彼氏とお昼ご飯とか?」
皆の視線が一斉に私を向く。
「へ?」
思わぬ方向からの質問に変な声が出た。
「何、その反応?!」
「うっそ、まじで?!」
「名前ちゃんと付き合えるて、誰?!」
きゃあきゃあと騒ぐその様子を見て、こういうところやっぱり女子だなと思って苦笑する。
「いや、ごめん、違うから」
「えー、本当?」
「ほんとほんと」
笑って否定すれば、なんだー、とつまらなさそうに皆して呟くが、私のことを何だと思っているのか。
「おい、席つけー」
先生の声に周囲に溜まっていた女の子達が散っていって、それぞれ席に着いていった。
だけどそうか、と私は考える。
御堂筋くんと私の微妙な距離感は、はたから見ればそういう噂の的になってしまったりするのだろうか。
御堂筋くんの迷惑そうな顔が頭に浮かぶ。
ただでさえ、あの異様な雰囲気の御堂筋くんは有名人なのだ。(本人としては不本意だろうが)
噂は一気に広まるだろう。
気をつけよう、と心の中で呟いたところ、手元に半紙が回ってくる。
委員会活動希望、と書かれ第3希望まで書けるようになっていた。
今回の担任は1年の時の担任とは違い、生徒に丸投げではなくこういうところも管理するタイプの先生らしい。
私は第一希望を図書委員と書いて、その他は適当な委員会を書き込んだ。
さっきの話だと、どうも図書委員はあまり人気のない委員会のようだし、恐らく問題なく希望が通るだろう。
書いた?と前の席から声を掛けられ、うん、と言いながら紙を前に回す。
なんだかいいスタートだよなぁ、とボンヤリ考えて、集めた半紙をトントンと整理する先生の仕草を眺めた。