合図(1/2)



「鳴子」
「あ、苗字!」

会場に着くと先にメッセージでやりとりしていた待ち合わせ場所に、鳴子が待っていた。
背の高い彼女はとても目立つ。

「京都から大変やったやろ…って誰?」

鳴子が私の後ろにいる光太郎先輩を怪訝な顔で見ている。
人との間にあまり壁がない分、思ったことものそのまま口に出てしまう鳴子に苦笑いする。

「先輩で明早大の」
「石垣や。よろしくな」

いつもの屈託のない笑顔で光太郎先輩が鳴子に挨拶をする。

「オレ、友達来とるから行くな」

またな、と手を振りながら遠ざかっていく光太郎先輩を見送っていると、視線を感じた。
横を見ると鳴子がにやにやしながらこちらを見ている。

「…何?」
「苗字にもついに春が来たんかなぁって」
「ないない」
「は?彼氏やないん?」
「逆に、は?なんだけど。なんでそうなるの」
「いやだって普通この長距離一緒に車乗ってくる?」
「光太郎先輩優しいから、ついでに乗せてくれたんだよ」
「ふぅん…。でも苗字はああいう人と付き合った方が、幸せなんやろうなぁと思ったけど」
「まぁ光太郎先輩は誰でも基本幸せにできるんじゃない」
「いや、そういうことやなくてさ…、あ、章吉」

会話の途中で真っ赤な髪の毛が目に入った。
私は慌てて周りを見渡して、俊輔がいないことを確かめて胸を撫で下ろす。
一体何にこんなにビクビクしてるのだろうか。

「章吉ー!」
「おー、翔子」

応援おおきにー、と言いながら章吉くんが軽い足取りでこちらに向かってくる。

「あんた、アップとかせんでええの?」
「後でする。ちょっと他に用があってな」
「用?」
「ん、ちょっと軽ぅく、挨拶にな」

そう言った章吉くんの顔つきが少し変わったが、私に気がつくとパッとあの明るい笑顔を浮かべた。

「名前ちゃん、久しぶりやな」
「あ、うん。がんばってね。」
「おう!期待しといてや!総合優勝は今年もワイらのもんや」

じゃ!と元気よく言うと、章吉くんはあっという間に去っていってしまった。

「相変わらず、忙しない奴」

呆れたように言う鳴子を見て、今度は私がふふっと笑ってその横顔を見る。

「…何よ」
「んーん。何にも?」
「なんか腹立つー」
「まぁまぁ照れない、照れない」
「照れてへんわ!」
「はいはい」

目尻まで真っ赤にして怒る鳴子を横目に、会場の空気を吸い込んだ。

この空気。
懐かしい。

あの日俊輔の応援で行ったレースを思い出す。
でもあの時よりずっと強い緊張感と高揚感で、肌がビリビリする。

「苗字ー?行くでー」
「あ、はーい」

私は先にいく鳴子を追いかけて駆け出した。




「…名前?」

懐かしい声が聴こえたような気がして、今泉は久々にその名を呟いた。
人混みの中に目を凝らしても、姿は見当たらない。

「気のせいか…」
「今泉?」

声をかけられて気がつけば、今泉のアップに付き合うためにバイクをとってきた杉本が隣に並んだところだった。
不思議そうな視線を振り払うように、今泉は頭を振る。

ー何考えてんだオレは。集中しろ!

「行くぞ」
「そうだね!行こう!」

今日は絶好のレース日和だと、今泉は空を見上げた。