再会(3/3)
ふんわりと月の柔らかい光が照らす道を、こんなにも焦がれてきた彼女と歩いている。
幸せで、物悲しい、不思議な気分で。
随分と差がついた身長差分横目で見下ろせば、少し大人びた横顔にどきりとする。
あぁオレは心底、この子のことが好きだったんだと、そう実感した。
手を伸ばせば届く距離を、彼女が穏やかな表情で歩いている。
引き寄せて抱きしめて離したくないと伝えたとしても、きっともう繋ぎ止めることはできないだろう。
“大切な人が、レースに出るから。見とおきたくて”
そう彼女が言った時、一瞬でも期待してしまった自分をみっともなく感じた。
ポケットの中、細いネックレスのチェーンを指先で弄ぶ。
まだ彼女の肌の温もりを残しているような気がして、くすぐったい。
本当に捨ててしまおうと思った。
思い出ごと。
だけど結局できなくて、代わりに投げたのは石ころだったけど、そのくらいの嘘大目に見てくれと思う。
せめてオレの中で大切にすることくらい、許して欲しい。
「じゃあ、私、ここだから」
「あぁ…」
いつまでも続けと願った時間は、あっさりと終わりを迎えた。
旅館の明かりの中に入っていく彼女の後ろ姿を見送る。
「…名前!」
よせばいいのに。
そんな呟きが頭の片隅に過る。
「オレはいつでもいいから。
何かあったら、連絡くれ。
ほら、鳴子伝ってでもいいから…」
口走ってから、言い淀む俺は馬鹿野郎だ。
名前はそんなオレを驚いたように見て、ふわっと笑った。
「ありがと」
その笑顔に充てられて何も言えず、暫くそこに突っ立ってた。
そういえばもうすぐおばさんの命日だったな、と1人の夜道で思う。
毎年一緒に過ごした。
彼女が1人で泣かなくて済むように、傍にいてやりたいと思っていた。
そうか、去年はあいつ1人で過ごしたんだ命日。
1人の部屋、百合と線香の匂いが立ち込める部屋で、彼女が1人いるところを想像して息が苦しくなる。
今更だ。
何を思ったところで、もう、オレが彼女の支えになることはできない。
せめて彼女が泣かないでいて、一緒に居たいと思える誰かと一緒にいられるように祈ることくらいしか、オレには。
夏の夜なのに涼しい風が吹いて、さっき触れかけた彼女の頬の温もりの感覚が薄れないようにぎゅっと拳を握った。
fin