残夢(1/2)



目が覚めたらベットの上だった。

力の入らない足でなんとか立って救護テントの外に出たら、石垣くんが立っていた。
まるで去年の亡霊のように。

結局石垣くんの車に乗せられて、ぼんやりとする頭で話しを聞きながら、ゴールゲートをくぐった。

今年のインターハイは終わったのだ。
残り3キロでボクは、土に沈んだ。

暫くしてチームに合流すると、小鞠が寄ってきて何でもないように言った。

『苗字先輩、来られてたみたいですよ』

そうか、と思った。
姿は見ていないけれどそんな気がしていた。
彼女が時折遠くから向けてきていた視線の感覚に似たものを、感じる瞬間があったからだ。

彼女と過ごした他愛ない時間をふと思い出して、チリチリと胸が痛んだ気がして息を吐いた。
ここ最近ずっと、意図的に距離を置いていたのは自分だというのに。


会いたい、なんて自分勝手この上ない。




夏はあっという間に過ぎていく。
気がつけば夏休みももう残すところ数日。
暑さに顔を顰めてペダルに足をかけた。

インターハイ後帰ってきて暫くは立ち上がれなかったが、少しずつ体力も回復してきた。
それでもやはり、叔母にもユキちゃんにも心配をかけてしまった。
今は少しずつ軽めのトレーニングかできるようになってきて、家を出られるようになったことで気持ちが軽い。

家でじっとしているより、外にいる方がずっと気が楽だ。
無音の部屋でじっとしていると、断片的な映像が浮かんでは消えていくのだ。
そしていつも、取り止めもない思考は同じところに行き着く。

そういえば、彼女はどうしているだろうか。

考えたってわかるはずのないその思考は、持て余す他ない。
結局ボクからは連絡をしていないし、していいのかもわからなくて。
あぁもうこういうことは思考を始めてしまった時点で詰んでいるのだろうな、と結論に辿り着いて思考をシャットダウンする。
それの繰り返しだ。

じっとりと滲む汗が風で流れていくのを感じて、思考が途切れる。
煩わしさを感じながら、片手で汗の滴をはらった。

そう遠くないところでゴロゴロと雷が鳴っている。

降りよるな。

ちらっと視線を上にあげると、さっきまで呆れるくらいに晴れ渡っていた空に不穏な雲が遠く山手から広がってくるのが見えた。

もうここまで来とるし帰り着くまでにはなんとか間に合うか、とペダルを踏み込んで家の近くの花屋の前を通過した先、視線が釘付けになった。
懐かしい後ろ姿が、ゆっくりと歩いている。

なんだか夢の残りを見ているような。

彼女の後ろ姿から漂う、あのどこかのんびりと浮世離れした不思議な空気感にあてられたのか、一瞬夢と現実の境が曖昧になった。

「苗字さん…!」

思わず声を出して、自分でも驚いて目を見開いた。
自分の寝言に吃驚して起きた時のように。

彼女が歩みを止めてゆっくりと振り向く。
手元に抱えていた百合の花びらがやけに白く浮かび上がって、彼女の薄い水色のワンピースが儚く揺れた。