Since then(2/2)
コーヒーを飲みながら、ノートパソコンを開いて文章を書き始める。
今雑誌で連載しているコラムの文章だ。
スポーツカメラマンになって数年が経つ。
カメラマンと言っても、サイクルロードレースのカメラマンとなるともはやなんでも屋だ。
撮影は勿論、翻訳、インタビュー、記事作成、はたまたイベントで喋ったり、レースの解説なんかもやる。
というか、そうでもしないと食べていけないのだ。
拠点はヨーロッパで、こちらで生活を始めて随分経った。
「ママ見て、この写真!アキラだ!」
隣の席に座った男の子が、身を乗り出して母親に見せた雑誌の記事が目に入って、お、と目を見開いた。
大きく掲載されたその写真は先日のレースの優勝者の写真。
撮ったのは私だ。
今回久々の本国での仕事は、この彼の凱旋パーティに同行してインタビューと撮影をすること。
パーティーへの同行は彼からの依頼で、それに託けてインタビューをお願いしたら渋々承諾してくれた。
しかし有名人になったもんだと、あの切り詰めるようにして走っていた彼の危う気な姿を、懐かしく思い出す。
あの頃からずっと、ファインダー越しに彼を追い続けてきた。
高校を卒業して、美大に行って、カメラマンになっても尚、飽きずに私は彼のファンをやっている。
これぞライフワークというべきものか。
「いや、執着というべきか…と」
思い浮かんだ言葉をそのまま文章にして打ち込む。
『あの夏の終わりに語った夢は現実になった。
カメラマンの世界は男社会だ。
それはメンタル面においても、フィジカルな面においても、男性に分がある世界だから当然だと思っている。
女性である私がここまでカメラマン(おまけにスポーツの世界で)を続けるためには、憧れやら夢やらそんなキラキラしたものだけでは到底無理だった。
夢を現実にしてからの方がずっと大変なこの世界で、ここまで続けてこられたのは彼が走り続けてくれたからと言っても過言ではない。』
「ちょっとキモい?」
流れで書いた文章を読み直して苦笑する。
コーヒーを口に運んで、斜め左上を見上げた。
そういえば最後に会ったのはいつだったけ。
私がこっちに来て数年後に、彼からフランスのチームに入ったとメールがきた。
この空港で出迎えて、タクシー乗り場まで2人で無言で歩いてその場で別れて、それ以来か。
数年ぶりの再会だったっていうのに。
私たちは昔からそうだったな、と思う。
距離を置いては、気まぐれな出会いを繰り返すのだ。
「あっ!ママ、ママ…!ねぇあれって…アキラかな?!」
隣の席に座った男の子が小声だが興奮した声で母親に話しかけている。
視線の先を追うと、カウンターで注文した飲み物を受け取る背の高い男が目に入った。
全身黒尽くめだけどまぁそれがよく似合うその姿を見て、驚きで目を見開く。
「僕、ちょっと行ってくる!」
店を出て行く彼の後を、男の子が追いかけて行った。
私はきっとこれからも選手としての御堂筋翔のファンであり続けるだろう。
あの男の子と同じように。
だけど、御堂筋翔という人間を知り、愛おしいと思えるのはきっとこの世界に私しかいないと、今は自信と誇りを持って言える。
これからもきっと、許される限り私は御堂筋くんの傍にいるだろう。
どんなに離れても、また出逢い直して。
▽
「久しぶりって言ったけど、なんか久しぶりな感じがしないんだよね」
「そらキミだけやわ。ボクは撮られるばっかりで、キミの姿を見たんは5年ぶりやよ」
「そんなに経つんだっけ。会いたかった?」
「何やのそれェ?独り身長すぎてついに妄想ォ?虚言?」
「でもやっと御堂筋くんから言ってくれてよかったよ。会いたいって。
いつまで待つのかなぁと思ってたからさ」
「ハァ?!ボク一言もそないなこと言うた記憶ないけど?ほんまに頭沸いてんとちゃう?」
「いやだって、同行しろってそういうことでしょ?」
「めでたい頭やなァ。どこをどう解釈したらそうなるん?」
「どこをどう解釈してもそういう意味でしょうよ」
「…腹立つわァ」
「違う?」
「……知らん」
END