ぐったりと力を失ったか細い身体を支える。
傍に転がった2本の脇差を拾い、鞘に収めた。
「アナタは欲が無さすぎるんスよ」
最後にふっと笑ったその表情の奥で言われた気がした言葉に、独り言を返す。
生きる欲まで捨ててしまうなんて、欲がないにも程がある。
短く繰り返す吐息と同じ速度で動く薄い胸元に手を当てた。
彼女の身体は生きることを諦めないで、懸命にその命を繋ごうとしている。
死神が命だなんだと言うのも、滑稽な話だと彼女は笑うだろうか。
それでもボクはアナタに生きていて欲しいと強く願う。
手早く応急処置を施して、重力を感じさせないその身体を抱きかかえた。
※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※ ※※※
「ん…ぅ」
「お、目、覚めました?」
未だ朦朧とした様子の名前を見て、喜助はゆったりと微笑んだ。
「浦原、くん…」
「なんスか?」
つい口をついて出た昔の呼び方に戸惑う名前を他所に、喜助がのんびりと笑ってみせる。
「…ここ、なに?」
まさか天国…?
あまりにも状況が読めずに混乱して呟く名前を見て、喜助が吹き出して笑った。
「天国というほど、いい場所でも状況でもないっスよ」
その様子をぼうっとした顔で眺めた後、見慣れない喜助の格好に気がついて繁々と見つめる名前に気がついた喜助が服の袖を持ちあげて見せる。
「これ、いいでしょう?」
名前が最後に見た黒い羽織ではなく、深緑の着物のような見慣れない着物を身に纏っている。
「甚平っていうらしいっス。今現世で流行ってるんスよ」
さらりと喜助が言ってのける言葉に名前は耳を疑う。
「現世?」
「ハイ、現世っス」
声だけ聞けば楽しげにも聞こえるが、その顔を見れば目は笑っていない。
「アタシらは、一時退却を余儀なくされました」
その声音や、喜助の変わってしまった一人称を聞いて、名前は悟る。
あぁ、そういうことか。
全ては遅すぎたのだ。
喜助の顔から視線を逸らして、名前は自分の掌に顔を埋める。
名前は喜助から聞かされていた最悪の結末を思い起こしていた。
世界を揺るがすような何かが蠢いていることは予測できていたはずだった。
その一端に夜霧が噛んでいたことも、夜霧がしていたことも突き止めた。
そこから紐解いていけるはずだった。
任務は完了していた筈だった。
だが、もうそんな段階には、すでにあの時なかったのだ。
「名前サン」
柔らかな声で紡がれた自分の名前を聞いて、名前はハッと顔をあげた。
目の前にあの時と同じ鳶色の瞳が揺れていた。
「よかった」
不意に抱き寄せられて、懐かしい喜助の匂いと温もりが名前の顔の横で震えた。
耳元で大きく吐かれた息で名前の横髪が揺れる。
「生きて。どうか、ボクの為に」
縋るようなその震える声で溢れた本音が、喜助の唇からこぼれ落ちた。
「…えぇ」
これからは、貴方のために。
終
