よだかの星
06

終わる。
これでやっと。

死の間際、何を考えるのだろうといつも想像していた。

じんわりと熱が広がる腹の感覚を確かめながら、傾いていく景色を見ながら私はその時を迎える。

ゆっくりとこちらに向かってくる鷹の足音を聞く。
奴は容赦なく私の喉を掻っ切るだろう。

今私を満たすのは、安堵だ。

大切な物を壊してしまう恐れや、一度知ってしまった暖かさを失う絶望感や、耐えられない自責からの解放を予感して、私は。



あぁ、やっと。




「許さないっスよ」



耳元で囁かれた聞き慣れた深い声に、解き放ちかけていた意識が急激に引き戻された。


「な、ん…」

揺らいでいた視線のピントが合っていく。
バサりと揺れた黒い羽織が滑り落ちて、柔らかな茶色が溢れた。
その柔らかさを触れて確かめたいと、かつて願ったその髪がふわりと舞う。

「いつの間に」
「さァて、いつの間にでしょうねぇ」

鷹の呟きは私の心中をそのまま映していたけれど、浦原の返答と共に鷹の瞳に生気の色は無くなっていた。
気がついた時には後ろに回り込まれて、鷹の喉が掻き切られていた。
ドサりと音を立てて転がったのは、私ではない。

転がって此方を見る虚な瞳を見た。
どこか満足げな表情にも見える。

あぁそうか。

奴もまた、解放されたかったのか。
この地獄のような円環から。




「酷い怪我だ」

急に視界に入り込んできた鳶色の瞳が揺れた。
ふんわりと目の前に屈んで微笑む浦原の目線を、私は受け止めきれず横に逸らす。
それでも頬に添えられた掌から伝わる熱からは逃れられない。
その熱と裏腹に、小刻みに伝わる震えが苦しい。

「名前サン」

呼ばれたその名の余韻を味わう。

「夜鷹は死にました」

ゆったりと笑みを含んだ声音を聞いて、私はゆっくりと視線を戻す。
柔らかそうなその前髪の向こう側で揺れる瞳をとらえる。

貴方はどこまでも優しくて、そして

「…残酷な人」

ぽつりと呟いた自分の声がやけに頭に響く。
同じように震える手を伸ばして、目の前の肌に触れた。
想像よりずっと柔らかいその温もりを、私の掌に押し付けてくる。

「アナタの為なら、蛇にも鬼にもなるっス」

それに、

私の青白い指が触れていたその唇が動いて、悲しそうに歪んだ微笑みで彼が言う。

「言ったっスよね?
アナタはボクのなんスよ。
勝手に諦めて死ぬなんて、許さない」


傲慢だなぁ。

そう思ったのか、言ったのか。
自分でも分からないけれど、でも多分見透かされているだろうと思う。

暖かい掌に視界が遮られて、柔らかな闇が降りてくる。
私は何も考えずに、その闇に意識を手放した。

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