
夢想の糸を売る
butterfly
049
するり、と這わせた指先は滑らかな感触を伝えてきて。指先には、相変わらず手入れの行き届いた短く整えた爪にワンポイントが女性らしいマニキュア。重ねるように握っても嫌がるような素振りは見せず。むしろ僕の動作を観察するようにじっと目で追っていた。
- 「逃げないんですか?」
- 「安室さんの手つきはイヤらしくありませんから。きっとたくさんの女の子を泣かせてきたのでしょうね。」
クスクスと笑う加奈さんは、ゆっくりと僕の下から手を抜いてドリンクの用意をし始める。それがまた優美に感じて、感嘆の息が漏れた。…いやいや、それも作戦の一つだろうに。反応してどうする!?
- 「どうぞ。」
- 「ありがとうございます。では、乾杯。」
- 「乾杯。」
飲んだ後、ふっと目を伏せたその姿が男心をくすぐる。
- 「前から思っていたんですけど、美味しそうに飲みますね。」
- 「ふふっ。このお店は美味しいお酒を揃えていますから。」
- 「お酒がお好きなんですか?」
- 「ええ、まあ。安室さんは?」
- 「そうですね。どちらかと言えば僕も好きですよ。今度、ご一緒にどうですか?」
- 「嬉しいお誘いです…けど、残念です。私、同伴もアフターもお断りさせていただいているんです。」
- 「理由を聞いても?」
- 「んー…秘密、で。」
うっとりとするような微笑みで人差し指を唇にあてられたら、大抵の男は抵抗なく受け入れてしまうだろう。そんな男の一人になるために、残念ですと眉を下げて苦笑してみせた。大事なところで指の隙間から逃げていくようなこの感覚。
- 「…あなたはどこか真奈さんに似ていますね。」
- 「真奈さん…?」
- 「ええ。先ほどまで話題にのぼっていた女性のお名前です。あまり自分のことを話さない上、肝心な質問からはなんとなく避けてしまわれる。彼女のことを知ったように思えて…その実、知らないままで。加奈さんもその女性も、何人の男を袖にしてきたことか。その女性が言っていたんですが、『秘密があった方が女は美しくなる』んだそうです。それを聞いた時は、外見に似つかわしくない言葉に驚きました。」
- 「…安室さん、もしかしてわざと私を怒らせようとしています?」
- 「怒ったあなたはさぞキュートなんでしょうね。こうも僕の手の内がバレてしまうと、逆に気恥ずかしいものです。」
ぐいっとグラスを呷って恥ずかしさを紛らす素振りに、またクスクスと小さく笑う加奈さん。いいぞ、少しは彼女の中に踏み込めたか?前に比べて表情が柔らかくなった加奈さんに、前回覚えた引っかかりが少しだけとれたように感じた。
2018/01/05 掲載
2023/03/12 再掲
2023/03/12 再掲