01:林檎を噛んだ

2020/02/27

#1

「ええと...この薬、もう飲んじゃっていいんですかね?」

「あぁ、それ早めに飲めって言ってたぜ」

「私もうのんだよー」

「僕も、さっきもらってすぐ」

朝焼けの光が逆光となって、黒く浮かび上がった人影が、私の前に3人分並んでいる。
薄暗い教室、夜明けの冷えた空気、それによってうっすら結露した窓。
私はぼんやりとその非日常を感じながら、先程受け取った錠剤をそのまま飲み込んだ。
水無しでいいらしいけど、ちょっと喉につかえる感じがする。

「それじゃあ、次に目覚めた時は...」

「うん、もう友達だよね!」

「バカ! 姉妹って言ってただろ!」

「あはは、姉妹だったっけ」

「ふふ、もう友達みたいですね」

「それじゃ君も、敬語辞めたら?」

「え?」

「僕達は目が覚めたら、姉妹のように振る舞わなくちゃいけないんだから」

「う、うん...頑張ってみま、じゃない、みるね」

「ねぇねぇところでさ、私たち誰がいちばんお姉ちゃんかなー?」

「んなことどうでもいいだろ」

「でも確かに、ボロが出ちゃうと困るし、ちゃんと打ち合わせた方がいいかもしれませ......しれないね」

「あまり話している時間はないよ」

「じゃあさ! 起きた順番にお姉ちゃんってことで!」

「ふふ、いいですねそれ。4つ子みたい」

「じゃーあたし一番最後に起きる」

それは、緊張をほぐすための無理な振る舞いだったかもしれないけれど。
一頻り笑うと、しんと心が静まってきていた。
目眩のように、強制的にやってくる眠気は、薬の効果によるものだと分かる。

もう言葉を交わさずに、一度だけ全員と目配せする。
それから、それぞれは眠気に身を任せて体を倒していった。

目を閉じる。
やがて、優しい夢の中に落ちていく。

これから送る日々に恐れはない。
大人になる頃には忘れる、日常の隙間の、些細な記憶を記していくだけのことだから。


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