02:流れを汲んだ

2020/02/27

#1

「えぇ!? なんでまた死体があるんです!? どどどどうしましょう最原クン...!」

「...いや、それにしては死体発見アナウンスが流れてないよ。たぶん生きてる...んじゃないかな」

数人の足音が近付いてくる。
私は重たいまぶたをゆっくりと開けて、埃っぽい床をしばし眺めた。
そうだ、もう家じゃないんだった。

「わっ、動きましたよ!?」

「うわあああああん!!! 酷いよキーボ! コロシアイなんてもうやめようって言ったじゃないか! キーボのバカ! スクラップになっちゃえ!」

「なんてこと言うんですか! それにほら、あの人たち生きてますよ!」

ぼやけた視界に、黒い靴が飛び込んでくる。
そこでハッと意識が目覚めて、辺りを見回した。
声で気付いたのか、一緒に眠っていた3人が覚醒の兆しを見せる。

「あっ、あの、起きてください」

一番近くにいたルトラさんに手を伸ばしながら、私はまずい、と思い直した。
そういえば姉妹という設定で、敬語も無しにしたのだった。

「あっ...ルトラ、起きて」

「ううん...」

私の声に反応して、3人はそれぞれ体を起こしていく。
そして、目の前の人物に気が付くと、密かに驚いた様子を見せた。
最原終一、王馬小吉、キーボの3人。
私も、なにかを悟られないように、平然とした態度で彼らに目を遣った。

そうだ。ここからどう展開するか聞いていないのだった。
とりあえず、何も知らないように振る舞えとは言われているけど。
さすがに、名前くらいは名乗った方がいいだろうか。

「あの、私は...」

そう口を開いた瞬間だった。

「やあやあ! ボクから紹介するよ!」

天井から落下してきたような、床下から飛び出してきたような、認識が上手くできないまま、私はモノクマの姿を捉えた。
余計なことを言わずに、話を合わせた方が良さそうだ。

「紹介って...どういうことです?」

「うぷぷぷ...まあそう焦らないでってば。この子たちは言わば、ボクの子供のような存在なんだよ」

「それってモノクマーズとは違うのか...? アイツらのことも子供とか言っていたよな」

「えっ? そんなこと言ったっけ?」

画面越しに見るのと変わらない、人を弄ぶような邪悪な口調。
反して、思ったよりも普通に見える「超高校級」たち。
私は心の中で溜息をついた。
仕事や夢のためとはいえ、こんな悪趣味なことに付き合わされるなんて。

そしてモノクマは、私たちの前に立ち直すと、背中を向けた。
まずは、私の方へ手を向けて。

「この子は譜字平紗如」

そう紹介した。

そして、それぞれに手を向けて、名前を挙げていくだけの淡々とした紹介を済ませたのだった。

私の一番近くに居た、小柄で寡黙な少女、日坂ルトラ。
そこから隣には、美人だけど不良っぽい振る舞いをする側葉良合歓。
そして最後に、のんびり屋さんでお洒落好きな詩守村琴都。
ちなみに、この名前は偽りではない。

「この子たちは、本来ならオマエラと同じコロシアイに参加する仲間だったんだよ」

そしてモノクマは、何の変哲もない一般高校生の私たちに、設定を加えていく。
事前に聞かされていない部分もあり、私は内心驚いていた。

「オマエラと同じくここに閉じ込められて、オマエラと同じタイミングで目覚めるはずだったんだけど...」

「待てよ、コロシアイは16人の高校生で行うんじゃなかったのか?」

「だーかーらー、4人死んじゃって、それで16人なんだってば」

「死んでた!?」

「やっぱりキーボがやったんじゃん! 白状しろよ! 殺人ロボ!」

「だからボクじゃありません!」

「...どういうことだ、モノクマ」

「オマエラがこの学園で目覚めたように、この子たちも決まった場所で眠っていたんだよ。だけどその時に不慮の事故で2度と目覚めることはなく...」

「なにが事故だよ...お前が殺したんじゃないのか」

「心外だよ〜! ボクは本当にこの子たちにも期待してたんだから」

頭の中で整理しながら、演じるべき自分を探っていく。
コロシアイだとか、才能だとか、事前にできる限り調べておいてよかった。

「まあそんなわけで、勿体ないのでボクのスーパーテクノロジーで目覚めさせちゃいました! ついでに、記憶のない状態からボクの子供として“教育”してあるから、オマエラの味方にはならないよ〜!」

ということは、特別知識が無くてもモノクマの味方のように振る舞えばいいのかな?
お父さん、って呼んだ方がいいのだろうか。

「くそっ...もっと早く気付いていればオレが救ったのに...!」

「嘘泣きはやめてください」

王馬小吉が頭を抱える傍らで、最原終一は訝しげにこちらを見詰めてくる。
この人が超高校級の探偵だったっけ。あまり関わらない方が良さそうだ。

「まあ、モノクマーズの活躍もあってコロシアイは盛り上がっているから、この子達は積極的にオマエラと関わったりしないよ」

「それじゃあ何のために、こんな人間を弄ぶような真似したんだよ...」

「何のためにだって...?」

最原終一の問いかけに対して、わざとらしく声を低めたかと思うと、次の瞬間モノクマは噴火の如く怒り出した。

「何のためにじゃないよもう! 超高校級のピアニストのピアノを、最原クンが壊しちゃったから! ボクがこうしてわざわざ! 楽器職人を育てたんだよ!」

「えぇ!? あれは王馬君が...」

「言い訳なんか聞きたくないね! あれがどれほど価値あるものかも知らずに!」

「あれを壊したのは僕じゃなくて...!」

「えぇー!? オレのせいにするなんて酷いよー!!」

「うるさいなあ! この話は終わり! ボクは焼豚煮込むのに忙しいからじゃあねー!」

「待てって、モノクマ!」

「ちなみに、かわいい我が子たちはすぐにピアノの修理に行っちゃうから、何か聞こうとしても無駄なんだからね!」

ぷんぷん、と音を出したまま、最原終一の弁明も聞かずに、モノクマはふっと姿を眩ませるように、この場を去ってしまった。

「あっ...」

残された気まずさに声が漏れる。
最原終一が、声を掛けようと近付いてくるのがわかる。
どうしよう。喋ればボロが出てしまいそうだ。

「ねえ...」

最原終一が声を発した瞬間。
私は合歓に腕を引っ張られて、前のめりにバランスを崩した。
それをルトラが支えてくれて、素早く教室の外へ誘導されていく。

「あ、ありがとう、2人とも」

「あぁ。早く修理に向かわないとな。父さんうるせーもんな?」

「あっ...うん、お父さんに怒られちゃうもんね」

合歓の助け舟によって、私は設定に相応しい話し方をすることができた。
振り返ることはできないが、背後には最原終一たちが私たちを呼び止めようとしているのが分かる。

それをかわすように、私たち4人はさっと廊下に出た。


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