02:流れを汲んだ

2020/03/04

#3

予想していた通り、図書室には分厚い教則本のようなものがあったし、倉庫には木材も工具もあった。

「あったけど...これは...」

私たちは倉庫にて、立ちすくんでいた。
学校にある倉庫とは思えないほど巨大で、さながら家電量販店のバックヤードのようだ。
反して、天井からはツル植物のような茎が垂れ下がっていて、それを天窓からの光が照らす様子は、植物園のようでもあった。

そして私たちが直面している問題。それは。

「のぼるの? これで?」

「そりゃあ...のぼらないとね...」

見つけた工具も木材も、棚の一番上にあり、そこまでのぼる手段が小さな荷物用のリフトだけということだ。いやハシゴなどに比べれば恐怖はマシなはずだけど、それでも簡易な柵が付いているだけのリフトであの高所まで行くのは怖い。
天井まで続く棚の、一番上。無慈悲。

「うぅ...紗如は下で待ってて...私いってくる...」

「えぇ!? 大丈夫?」

「ま、任せてよ」

そう言った琴都の表情は、全然任せていい表情じゃなかった。けれど、私は言われた通り、荷物を受け取れるように準備して琴都を見守ることにした。
金属の床板をカンッと鳴らして、琴都はリフトに乗り込む。
恐る恐る操作しながら、寒さに震える子猫のように運ばれていく琴都を見守ることしか出来なかった。

「よし、こ、これを取って...」

限界まで上昇させてもまだ背伸びが必要なくらいの場所から、琴都は大きな板を1枚取り出す。

「あっ...どうしよう...1枚しか持てない...」

「いっいいよ、無理しないで、危ないから持てる分だけで...うん、一旦...」

「わ、わかった、一旦...もどるよ...?」

「うん...そっとね...あっ、そこ板ぶつけないように気をつけて」

ぷるぷると危うい手つきで琴都はリフトに板を乗せようとした。
その時。

「うわっ」

ガチャ、と背後で扉が開く音とともに、驚いたような声が聴こえた。
その拍子に琴都が板を落としそうになる。
振り返ると最原終一と獄原ゴン太が目を丸くしていた...が、それどころじゃない。
私は琴都の方へ向き直った。

「たっ...たしゅけてぇ...」

落としそうになった板を間一髪で掴んだは良いものの、重たい板を手のひらの力だけで持って、引き上げることすら出来なくなっている。
琴都自身も板に引っ張られるように、リフトから上半身を乗り出して動けなくなっていた。

「あわわわわ、お、落ち着いて琴都」

「む、むり...落ちる...」

「あっ、い、板落として!? わわ私キャッチするから!!?」

「それじゃ紗如があぶないよぉ!」

「あのぉ...」

上に向かって喚く私の横に、気付けば獄原ゴン太がやって来ていた。
うわ、そういえばこんなに大きい人なんだっけ。事前に聞いてたよりも大きく感じる。

「ちょっと、ゴン太くん...」

そこに最原終一も加わって、全員で琴都を見上げる形になる。

「さっき言ったモノクマの子供っていうのが...」

「わかってるよ。でも困っている人を見逃すなんてできない。紳士に敵も味方もないよ!」

「...だよね。よし、僕も協力するよ」

物凄い覇気で最原終一を圧倒するかのように見えたが、最原終一は意外にも賛同した。
なぜ? モノクマを恨んでいるんじゃないの?
だって、中継でも見た。自分の好きな人を殺された彼の姿を。
私たちのことも憎いものだと思っていた。

呆然としている私を他所に、獄原ゴン太は呼び掛ける。

「ゴン太がキャッチするから、落としていいよ!」

「なにいってるの!? 無理だよぉ!」

泣いてるんだか怒ってるんだか分からない声で、琴都が拒否するが、そこに最原終一も呼び掛ける。

「ゴン太くんなら大丈夫だよ。詩守村さんごと落ちてきたとしても、片手で受け止められるほどだから」

「ほっ、ほんとに...? いや嘘でしょ...」

この人名前覚えてるんだなぁと、横目で最原終一を見ながら、私は本当に獄原ゴン太ならやってのけるのではないかと思い始めた。

「あーもう!! ほんとに離すよ!」

そして、琴都の握力も限界に達し、彼女は半ばヤケクソのように手を離した。

岩のように重たく落下するそれを、獄原ゴン太は紙でも掴むかのように片手で掴まえた。

「はえっ...」

「おほっ...」

間抜けな声を漏らして、私と琴都は板を掴むその手を見詰める。
しばしそのまま凝視してしまうほどの驚きだった。

大丈夫だったでしょ、と最原終一が笑いかけてくる。
思ったより親しげに話しかけてくることに動揺しながらも、私はこくりと頷いた。

それから全員に見守られながら、琴都を乗せたリフトはゆっくりと降りてきた。
そして改めてお礼を言ったところで、最原終一が提案してきた。

「多分、修理のための材料集め...だよね? あの破損状況じゃもっと必要なはずだろうし、手伝おうか?」

「うん! ゴン太も手伝うよ!」

「えっ...あの...なんでそこまでご親切に...?」

「やばいよ紗如、逃げよう」

「えっ?」

「だって、なにか聞き出そうとしてるのかも...」

「はは...あの、僕たちにそんなつもりは無いよ?」

「でも君、探偵なんでしょ...?」

「君たちは何も知らないか、言えないかのどっちかじゃないかな? モノクマが監視してるから、君たちから聞き出そうとしても無駄ってことはわかってるよ」

「でもそれじゃ何で? 親切にされる意味が分からないんですけど...」

「それは...」

最原終一は顎に手を当て、目を逸らした。一瞬考え込む様子を見せたが、すぐに読めない表情をした。

「とにかく、君たちは元々僕たちと同じ境遇で、モノクマの子供とはいえ会話は普通だし、修理にしか興味がなさそうだから...コロシアイには直接関係ないってことで、まあ警戒してないってことだよ」

「そう? ですか」

なにもおかしいことは言っていないと思う。
思うんだけど...妙な感覚がした。

「それで、どうかな? よかったら手伝うよ」

確かに、非力な私たちには有難い提案だ。琴都も、もう納得している様子だし、お願いすることにしようか。

「えっとそれじゃ、お願いします。必要なもののリストを渡しますので...」


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