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「日和くん、あの、そうガン見されてるとちょっとやりづらい…」

「ぼくのことは気にしないでほしいねっ」

「いや気になるって」

食材を持って帰宅して、使わないものは冷蔵庫にしまったらさっそく調理にとりかかった。普段はエプロンなんてしないが、今日は人さまに出す料理なので一応エプロンをつける。調理といっても大して手の込んだものではないしあまり時間はかからない予定だ。しかし大したことはしないのに、何故か後ろからずっと日和くんが覗き込んでくる。喋りかけるでもなくただじっとわたしの作業を見つめているのだ。正直めちゃくちゃやりにくい。おずおずとそれを伝えるが全く相手にされず視線を外してくれる気配もない。ジュンくんに助けを求めようとリビングの方を見遣ったが、彼は日和くんとバトンタッチでブラッディメアリーを構っておりこちらに目を向ける様子もなかった。
結局最後まで日和くんはわたしの後ろを離れなかった。途中、見てて楽しい?と聞くと笑顔で肯定されたので、まぁいいか…とそこからはもう好きにさせていた。こういうところが甘いと言われる所以なのかもしれない。そのまま日和くんにも手伝ってもらって3人分のタコライスと飲み物をテーブルに運ぶ。わたしは一人暮らしだが、引っ越す際に七種がいろいろと気を利かせてくれたため一人暮らしにしては家具が全体的に大きい。ダイニングテーブルはなぜか4人がけだ。当初はこんなでかいテーブル必要か?と思っていたが、今となっては七種はたぶんこういう状況を想像していたのだろうな、と思っている。そもそもコズプロの補助のおかげで部屋自体も一人暮らしにしてはかなり大きいので、なんというか会社には足を向けて寝られない。


「いただきます。」

3人で声を揃えて手を合わせる。時刻は13時を少し過ぎてしまったためお腹もすっかりぺこぺこだ。ブラッディメアリーは遊び疲れたのかソファの上で眠っている。自分の作ったタコライスを食べながら、これも良い休日だな、と目の前に座る2人をぼんやり眺めた。







食後、そういえば、と思い出す形で、わたしがみんなに対して過保護であるという話になった。わたしは相変わらずそんなことないと思うけど…という立場だったが、あろうことか日和くんは「名前の過保護は今に始まったことじゃないね!」と笑った。日和くんは比較的常に世話を焼かれてきており、他人が焼いてくれる世話に過保護と感じるタイプではないと思っていたため地味にショックを受ける。今に始まったことではない、ということはずいぶん前から過保護だと思われていたということである。


「ぼくは名前に大事にされるのは嫌いじゃないから構わないけどね!というか、ぼくたちも名前のことを大事にしているから、お互いさまだよ」

「そりゃあ〜オレだって名前さんのことは大事にしてますけど。なんていうか男として?あんまり守られすぎるのは情けないじゃないですかぁ?」

「みんな十分かっこいいし、情けないとか思ったことないけど」


日和くんと凪砂くんは今はもう卒業したとはいえまだ高校生なのに勉強しつつアイドルとしての仕事をこなして、スキャンダルのひとつも立てずに業界のトップに立ち続けている彼らに対して誰が「情けない」なんて感想を抱くだろうか。彼らと比べるとむしろわたしの方が情けなく思えてくるくらいだ。わたしは奨学金で大学まで行かせてもらって就職先もコズプロに甘えて、良くしてくれた上層部の人が切られた後も図々しく残り続けた挙句に担当アイドルを好きになってしまうようなダメな大人だぞ。さすがにいちばん最後のは口には出さなかったが、自分で言っててたいへん情けなくなった。ジュンくんは「奨学金で大学に行かせてもらえたのもそのままうちの事務所に就職したのも全部、名前さんがきちんと頑張って結果を残したからですよ!」と前のめりに慰めてくれる。日和くんも当然だね、と言いながらお茶を一口飲んでいた。年下に気を遣わせたことに更に情けない気持ちになる。あーあ、何をやってるんだろうな、わたし。


「ごめん気を遣わせちゃって。ありがとう。……でもそっか。だから、たぶんそういうことなんだね」

「?」

「落ち込んでたら元気になってほしいって思うし、自分にできることはやってあげたくなる。そうじゃない?お互い」


きっと彼らだってわたしに過保護なのだ。ただの仕事相手なはずなのに、優しすぎるくらい優しい。ジュンくんが帰り道で言いたかったことが分かった気がする。要はわたしが彼らに心身共に健やかであってほしいと思うのと同じように彼らもわたしのことを考えていてくれて、何かあればその支えになってやってもいいと思う程にはわたしのことを大事に思ってくれているのだ。荷物が重ければ頼ってほしいし、落ち込むことがあれば弱音を吐いてほしい。そう思ってくれているのだろう。
そう伝えると、ジュンくんは目を輝かせてそうっす!と肯定した。うまく言葉にできなかったことがちゃんと実体を持って嬉しいらしかった。


「何の話?仲間外れは感心しないね!」
「買い物に来なかったおひいさんには言わねぇっすよ」
「ジュンくんのくせに生意気だね!?」
「うわっやめてくださいって」


ジュンくんに詰め寄る日和くんに思わず笑みが溢れる。本当に仲の良いふたりだ。1年前はここにわたしも入れて貰えるなんて思ってもみなかったな。


「いっこだけ図々しいこと言ってもいい?」

「なぁに?」
「何すか?」

「かわいい弟が2人できたみたい。みんなのことは家族みたいに大事だよ、だから過保護になるのかも。」


じゃれる2人を微笑ましく思いながらそう言う。日和くんが「弟?ぼくが名前のお兄ちゃんの間違いじゃないかな!」と言ってジュンくんを呆れ顔にさせたので、それがおかしくてまた笑ってしまった。

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