愛の在処を探しているの


お酒の席で盛大にやらかし宮くんと付き合うことになって1ヶ月が過ぎた。高校時代ほぼ喋ったことなどない彼と付き合うことになって、私は初めて宮侑という人間がどんな人なのかを知ることになった。

宮くんは意外と連絡がマメだった。付き合うことになったあの日、お互いの連絡先を交換して以来、宮くんは私なんかよりよっぽど多忙だろうにやり取りが途切れることは無かった。
宮くんが思っていたよりも理想的な男性だったからこそ思う、なぜ彼は私を選んだのだろう。

高校時代の彼の女性遍歴は興味がなくてもよく聞こえてきていた。一言で言うと"来るもの拒まず、去るもの追わず"。学年で一番可愛い女の子や他校の読者モデルをしている女の子など、人が聞いたら羨ましがるような華々しいお相手が多い割に長続きしない、そんなイメージだ。
今はプロになってメディアに出ることが多くなったから気をつけているのか、熱愛報道などは聞いた事はないが女性人気は相変わらず凄まじい──そんな人がなぜ私?彼が私の何に惹かれたのか、さっぱり分からない。
そして私自身、彼の色気に当てられてその場の雰囲気に流されて付き合ってしまったので、彼をちゃんと好いているのか、自分の気持ちすら怪しい。

「名字、まだ帰んないの?」
「はい!ページのレイアウトまで完成させてしまいたいです!」
「あはは、相変わらず仕事熱心やね。いいよ、警備員さんには伝えとく」
「ありがとうございます!」

「お疲れ〜」と手を振りながら帰っていた編集長の背中を見送り、かっこいいなぁとうっとりした。
さて、許可は下りたがあまり残っていると編集長が会社から怒られてしまう。仕事ができる人というの時間内にやるべきことを終わらせられる人だ。気合いを入れ直し机の上に広がる資料と向かい合った時、デスクの上に伏せて置いていた携帯が震えた。編集長が忘れ物でもしたかな、と画面を見るとそこに表示されていたのは"宮侑"の文字だった。

「もしもし?」
『お疲れさん、今暇か?』
「いや、まだ会社残ってるけど…」
『えっそうなん!?もう10時やで!?』
「終電には乗るから大丈夫。それよりどうかした?」
『ん、ちょっと遅いけど軽く飯でも行かんかな思うて連絡したんやけど無理そうやなぁ』

間延びした声で言う宮くんに少し申し訳なく思った。いや約束もしていなかったのだから、申し訳なく思う必要もないのかもしれないが。

「うん、ごめんね。今週の土日だったら予定入れてないから、」
『ほなまた予定見て連絡するわ。仕事がんばりや』
「……うん、ありがとう」

電話越しで声が近いからだろうか。心に染み入るような声音に返事が遅れてしまった。真意は宮くんのみぞ知ることだが、心から言ってくれているようなそんな気すらしてしまう。
プツリと通話が切れた後、改めて資料と向かい合って我に返る。

──ん?いま私、もしかしなくてもデートの約束をしてしまった?


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日曜日の10時25分、約束の時間のきっちり5分前に到着した私は駅前で宮くんが来るのを待っていた。
今日のデート、宮くんが提案してきた行き先は意外にも地元兵庫にある動物園だった。女慣れしていて、金銭的にもその辺の男性より遥かに余裕がある彼のことだから、てっきり都内で世の女性が一度は憧れるようなオシャレデートでもするのかと思っていたがどうやらそれは偏見だったらしい。
宮くんに到着した事と今いる場所をメッセージで飛ばした後、ガラスに写った自分を見る。
ゆったりとしたワイドデニムにショート丈のTシャツ、その上から少しオーバーサイズのシアーシャツ。日差しが強いのでキャップも合わせてみた。全体的にカジュアルな装いなので、少しでも女性らしさを出したくてピアスは大ぶりな物を付けてきた。
今日は一日歩き回るだろうから動きやすい服にしてみたが変ではないだろうか。宮くんはどんな服で来るのだろう。背が高くて顔も整っている彼はきっと何を着ていても目を引くだろうから見劣りしないと良いけれど…。
そんな風に考えていたらどうやら百面相をしていたらしい。背後で聞き覚えのある声が噴き出した。

「み、宮くん…」
「ふ、くく…いや、すまん。声かけようと思うたんやけどめっちゃ集中しとったから」

「おはようさん」と宮くんが太陽顔負けの眩しさで笑った。改めて2人で出かけるとなるとなんだか緊張してしまい、どもりながら挨拶を返した私を気にすることなく、「車、あっちに停めてんねん」と私の手をするりと取って引いていく。す、スマートだ…。

「あの!宮くん、手…」
「ん?付き合っとるんやしこれくらい普通やろ?」

「高速乗るから飲み物買って行こ〜」と上機嫌な宮くんにぐいぐい手を引かれて、初デートは幕を開けたのだった。

結論から言うと、宮くんとのデートはとても楽しかった。最初何を話そうか悩んでいた移動中も、宮くんが遠征での話やチームメイトの話を聞かせてくれたり、逆に質問を振ってくれたりしたので話題が尽きず、気まずくもならなかった。
着いてからも入場ゲートで流れるように奢られるというイケメンっぷりを披露したかと思えば、馬の餌やりに腰が引けていたり、ライオンや虎に小学生男子よろしくテンションが上がっていたり、触れ合い広場で大きな体を丸めてモルモットを抱っこする姿が妙に可愛かったり…。アナコンダを首に巻いたときに恐怖で顔が死人のようになっていたのは、申し訳ないけれど声を出して笑わせてもらった。

動物園の端から端までしっかり満喫し、気付けば時刻は夕方に差し掛かっていた。休憩がてら飲み物を片手にベンチに腰掛ける。

「あーっ、楽しかった!蛇を首に巻いたときの宮くん…っふふ、」
「いや、アレはアカンやろ。逆になんで名前は平気やったん」

信じられん、と思い出して顔を青くする宮くんが面白くてまた笑った。思い出し笑いをする私を、温かな視線で見ていた宮くんがゆっくりと口を開く。

「なぁ、今日って夜遅くなってもええか?」
「あ、え……と、」

それはつまりそういう事なのだろうか。急にドキマギしてしまった私に、宮くんは「ああ悪い、ちゃうくて、」

「夜飯、サムのとこ行こう思て」

そう言った。
宮くんの問いの意味を理解してしまえば、湧き上がる恥ずかしさを抑えられなかった。なんて勘違いをしてしまったのか、穴があったら入りたい。これではまるで期待していたみたいだ。
そんな私を見透かすように、にんまりと笑った宮くんが至近距離に顔を寄せてきた。

「何や?俺とシたかった?」

唇が触れそうな距離で低く囁かれる。色素の薄い瞳は鋭くて、吸い込まれてしまいそうだった。動揺で"はい"とも"いいえ"とも言えない私から宮くんが「なーんてな、冗談や」と離れた。

「今日はまだ名前と行きたいとこあんねん。せやから、そういうのはまた今度な」

"また今度"──つまり今日でなければ宮くんはその気がある訳で。いや、これ以上考えるのは止めよう。
明日は月曜日なので早く帰れるに越したことはないが、噂に聞く宮治のお店"おにぎり宮"は正直気になる。それに宮くんと過ごすのは楽しい。このまま解散は少し惜しい気がしてしまったのだ。
お酒を飲んだりしなければ明日には響かない。そう思い、夜ご飯は双子の兄弟の店でというお誘いに二つ返事で頷いた。