××××・オリジン

最初の不運はこんな個性を授かってしまったこと。二つ目の不運はその力を目にする機会に恵まれてしまったこと。
その時まで周りは、私ですら自分を『無個性のかわいそうな子』だと思っていた。しかし根本から違ったのだ。私に個性は存在していた…ただ一度たりとも発動したことがなかっただけだ。

その日、逃亡する敵の運転するトラックに私は轢かれ、確かに死んだのだ。当時のまだ子どもの体は十数メートルもふっ飛び地面に叩きつけられた。腕も足もありえない方向に曲がり、腹はつぶれ、頭蓋骨が砕け、落ちたところに赤い血だまりを広げていた。母と父の泣き叫ぶ声。敵を追跡していたヒーローがどうにか私を救うために救助を要請したりと忙しくしていたが、誰がどう見ても即死レベルの傷だ、強力な治癒系個性持ちでもなければとてもじゃないが治せないし、要請したところで到着までもたないことは明白。泣き叫ぶ両親の声をBGMに、私はあの時確かに死んだのだ。
そうして私は音も色もない世界に一人落ちた。上も下も右も左もないそこは死後の世界という認識でいいのかは謎だ。だが、怖くて目を瞑り、次に開けた瞬間、見たのは両親とプロヒーロー、野次馬の驚愕と恐怖に染まった顔だった。『無個性』の私…かわいそうな私…そう思い思われていた女の子は、この超人社会においても非常に稀有で異質な化け物だった。

​──個性『不死』

そこにあるのはただ純粋な恐怖。幼子だった私に耐えられるはずもなく、私はそこから逃げ出した。





「どう?似合う?」
「お似合いですよ、死否」
「ありがと黒霧。ねぇ兄さん、似合う?雄英の制服」
「普通」

じゃあ多数決で結論は似合うということで。新品の制服を身にまとい360度くるりと回る。どの辺が多数決なのか死柄木は謎だったが指摘するのも面倒でやめた。
さっさと行けと言わんばかりに手をしっしっと揺らす兄・弔に死否はもう!と口をへの字に曲げた。だが、これが初日にして遅刻をしてしまわないようにという兄の分かりづらい気づかいであることは死否にはお見通しなのだ。

「行ってきます!」

黒霧だけが声に出して見送ってくれた。全体的に暗い拠点から一歩外へ、朝の眩しさに死否は目を細める。明るい場所は嫌いではない、それと同じだけ影が濃くなるから。

死柄木死否──偽名は不和死否。
雄英高校普通科の新一年生、その正体は敵(ヴィラン)だ。