我儘で、欲張りで *
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「ほっぺ触ってもいい?」
「…聞く前から、もう触ってるよね」
「うん」
皆が帰った教室で二人、私たちはじゃれていた。
もっぱらこちらからちょっかいをふっかけてるだけなんだけど。
恥じらいを含んだ怪訝な表情をもっと見ていたくて、この子に触れている。
私は穏やかに笑っていたけど、心臓は普段より明らかに速く脈打っていた。
こんな些細な触れ合いなのに。杏奈に抱いている感情が恋なのだなぁと、実感する瞬間。
むに、と摘んだり撫でてみた。柔らかくて心地よくって、もっと触りたくなる。
「……そんなにほっぺばっかり触って」
「気持ちいいよ?すべすべしてる」
「わっ、 ちょっと…!」
びくびくっと驚いて、彼女は少し大きな声を出した。
杏奈の頬に自分の頬も重ねて、大胆に頬ずりしたものだから。
「ほっぺやわらかいーっ。可愛い」
「もう…んー」
距離が近い。
話し声までほっぺ越しに震えて伝わってくる。
恥ずかしくて、この杏奈との距離が嬉しくてぎゅっと両腕で抱き締めた。
「近いよ、なんか恥ずかし…」
「もっと恥ずかしくなることしてあげよっか?」
「…っん!」
私は杏奈の頬に唇を押し当てた。
キスされたのに気がついて、くすぐったそうに首をすくめる。
「もうっ、何するの…」
「可愛いからつい、ね?」
場所をずらして、また短くキスする。そしてまたもう一度。
杏奈はピク、と唇が当たる時に少し震えた。
「もうだめだよ。ちゅーし過ぎ」
「もうちょっとだけ…」
そう言って何度も、頬に唇で触れた。段々と赤みが差す恥ずかしげな顔を見ていると、もっと困らせてあげたくなる。虐めたくなる。
むしろ、時々唇を固く締めて息遣いを殺すようにする様子は私に拍車を掛ける。もしかして感じ始めてるの?
そうだとしたら、もっと感じて貰いたい。平然を装えなくなる程に、顔じゅうにキスを浴びせたい。
欲が止まらずもっと、もっとを求めた。
わざと音をたててみたり、私の唇の粘膜が当っているが分かるようにねっとりと頬への口付けをする。
「…っ、…ふ」
半開きになった口から、小さく吐息が漏れ出した。
その刹那げな様子が可愛過ぎて、指で彼女の唇をなぞっていた。ゆっくりと輪郭を確かめて触れる。
彼女は眉を下げてうっすらと目を開いた。濡れた瞳で、辞めてと訴える。
だけど私は唇同士が触れ合うギリギリの場所にキスを落として、てろ…っ、と舐め上げた。
「彩…っ……」
か細く私の名を呼ぶ声だった。
いつもとは違う切ない声に、ぞくりと鳥肌が立つ。愛しくて堪らない。
「……?!」
思うがまま唇を奪っていた。柔らかくて温かくて、それでいてしっとりとした彼女の初めての感触。ずっと夢みていた杏奈とのキス。
数秒触れていただけなのに、心臓が暴れ過ぎてただただ苦しい。
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