エッセイ *恋愛
彼女は作業着
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授業が終わるとこれから暫く彼女を見れないことに悲しくなった。何故なら石川さんは隣のクラスだから。実習の時間と廊下などですれ違うくらいしか接点がない。

なので次の実習の時間の日を俺は馬鹿みたいに待ち焦がれた。


そして実習の日、彼女を探した。しかし見当たらない。


「この中に居ない奴は居るかぁ」

出席を取る先生の少しややこしい問いに一人の生徒が手を上げた。


「はーい、広奈が居ません」

「また遅刻か」


「多分」

「全く彼奴は…」


通りで探しても居ない訳だ。また遅刻ってことはよくするんだろうか、女子について無頓着だったのでそんなこと初めて気付いた。

彼女は実習の時間までに来てくれるんだろうか心配になる。


朝から3限続けて行われる実習の3限目が後15分で終わるとき、やっと彼女は姿を見せた。

「…遅れてすみません」

そう言って担当の先生に遅刻の紙切れを渡す。


「お前、何回目だ?」

「覚えていませんっ」


何と堂々とした答え。先生が呆れている。

「まぁいい、次から気を付けろよ。もうすぐ片付け始まるからもっと早よ来い」

「えー、折角着替えたのに」

遅刻した身でありながら、彼女は愚痴を零した。

「お前が悪いんだろ!しゃんとせい」

「はい…」

叱られてダルそうにしながら彼女は友達のもとへ挨拶しに行った。


「もう、広奈は遅刻ばっかりして」

「来る時間も遅いし」


早速注意される声が聞こえる。


「だって…、時間過ぎて直ぐに行ったら生徒指導がおるんやもん。私何回注意されても直らんから、長々と説教されて怖いんで」

「だったら早よ来りゃええやん」


友達の言うことは間違いなく正論だ。


「起きれんし、誰も起こしてくれんもん」


少し威張って言い訳する彼女が何だか心配になった。



とある昼休みに弁当を男2人で食べながら俺は口を開いた。

「なぁ耕太郎…」

「ん、何」



「お前って好きな奴とかおんの」

余りにも唐突な質問を、わざと話のきっかけを作る為にした。

「いきなり何言うんや」

少しビックリして箸を止めて俺を見た。

「いやぁ…」

どうか俺の言いたいことを察してくれ。自分で言うにはかなり恥ずかしい。


「あ、修二好きな奴でも出来たな」


勘良く耕太郎はニヤニヤと話した。だけど、ハッキリ言われてしまうのもこの上なく恥ずかしいと感じた。

耳が熱くなる。


「そうなんやぁ…あ!どうしよ!!」


途中から緊張の余り大声を出さずには居られない。


「落ち着けよ、お前」


冷静に友はそれをなだめて少し待ってくれる。




「てか誰なん?」


そして興味あり気にじっと俺を見て聞いた。


「実習で同じの隣のクラスの石川さんって人」



「あぁ、分かった」


名前を聞いた途端、彼奴の表情がなるほどねというものになった。


「耕太郎って凄いなぁ!隣のクラスの女子の名前覚えとんや!」



「否、あの子級長やから」


「ハァ…?」


気の抜けた返事をしてしまう。級長?あのいじられキャラで頼りなさそうな子が。


「石川さん言うたら胸がDカップくらいの…」


満面の笑みを湛えながら、小さく言葉が放たれた。Dカップ…?違う、どこ見てんだ、この変態。


「なんて破廉恥な!てか石川さんてそんな胸デカくなかったし、しかも遅刻ばっかしてんのに級長なわけないやん」


その言葉に呆気に取られた耕太郎は少しどうでも良さそうに話した。


「じゃあ、お前が言ってんの石川さんちゃうんちゃん」

「でも作業服に名前が書いてたし」



石川じゃなきゃ誰なんだ。


「知らんわ」


彼は一言言うとまた弁当を食べ始めた。

「もしかして二人とも同じ名字とか?」

「さぁー…」

素っ気なくなってしまった友の相槌に、俺は情けなくなった。あの子の本当の名前は何なんだろう。

そうぐるぐる考えていた。


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