エッセイ *恋愛
生殺しの体温
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*美味しそうでしたか?


「ね、私の弁当も一緒にあっためさせて」


混雑した昼休憩の台所にある電子レンジ (口を開けたまま) の前で、ささっと私の弁当の隣に自分の弁当を並べて扉をパタンと閉じた。

咄嗟に、どうぞとは言ったものの、まだその時は状況が掴めてなくて、回り始めるターンテーブルの上に乗った二個の弁当を見て理解した。


さっき自分の弁当を入れる前、一応周りを見渡して先に入れそうな人がいないか確認したのだが。
その時チラッと見た時、新井さんはまだ弁当を包んでいるクロスの口を解いてる最中だった。だから先に電子レンジを使わせて貰う事にしたのにな。





あ…、一緒に回ってるや。

ただ、そんな事で私は嬉しくなっていた。
だって新井さんの事が好きだから。


「二個だから、長めに温めたら大丈夫でしょ」

「そうですねぇ」


クルクルとタイマー式のダイヤルを回して、温め時間が設定される。

その待ち時間の間に、ちょこまかと新井さんは箸や自分のカップに珈琲を準備をする。
私も彼女のように支度する。



少しして、うらめしそうな声が聞こえてきた。


「美味しそ〜お!」

振り返るとこちらに向かってにこっ、と笑っている。

私の作ってきた小さいタッパーに入ったポテトサラダが目に止まったようだった。



「良かったです」


もっと、いい言葉を返したかったのにこんな事くらいしか言えなかった。
ありがとうございます、くらい言えばいいのに。


嬉しいくせに、頭が回らない。
ドキドキして、頭が回らない。


――チンッ




そそくさと新井さんは弁当をレンジから取り出して自分の席へ向かう。


「お先ね」

「はい」




自分の弁当をレンジから取り出しながら、ああ、本当幸せな奴だなぁと、思った。


そしてお弁当作るの、また頑張ろうとこっそり思うのであった。


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