だって、家族ですから
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『僕に彼女が出来たんだ』
「あのね、付き合ってる事……しばらく秘密にしておいてくれる?」
浮かれている僕に、おずおずと口ごもりながら彼女がお願いする。
「うん、いいよ?」
「ありがとう。なんかね、バレたら周りに気まずいというか、気を遣うというか……」
君は申し訳なさそうに、下がり眉になる。
「いいよ、僕も落ち着くまでしゃべる必要ないと思うし。もし久しぶりに彼女ができたなんて話そうもんなら、色々冷やかされて面倒くさいから」
早口にならないように気をつけながら、少しゆったりとしたペースで僕は話した。
それを聞いて、彼女の顔もどこかほっとした風にほぐれる。
「……あの人の事も、悲しませたくないし」
「うん。なんか、かおりちゃんらしいね」
なぜ付き合っていることを秘密にしたいのか、理由を説明するために不意に出てきた『あの人』
彼女は前付き合っていた人の事を話題に出すときに元彼とも言わないし、もちろんその人の名前を出したりしない。
あの人、っていったい誰なんだろう。遠い人みたいに言う、彼女が最近まで付き合っていた過去の人。
「あ、別に今も好きとかそんなんじゃないんだけど。ただ、あんまりにも切り替え早いような気がして」
「そう?」
「うーん。インターバルが早いの。恋愛と恋愛の。自分でもまだ少し気持ち整理したいくらいで。しばらく誰とも付き合う気もなかったし」
あ、また困った顔を君はする。付き合う事を決めたのに戸惑っている。
僕は今最高潮に浮かれ野郎なのに、彼女はまだ素直に喜べない感じだ。
「ごめんね? けど、付き合うタイミングはいつでも一緒だとは思うけどなぁ。何もせず待ってる間に、他の人に取られたらと思うと僕は嫌だったから」
頭を軽くぽんぽんと撫でて、少しだけ顔を近付ける。
あ……、初めてかおりちゃんの髪の毛触った。空気を含んでサラサラというより、この子の髪の毛はフワフワした感触だ。
女の子の香りがふわっと、鼻先をくすぐる。
シャンプーの香りなのかな。好きな人の香りってなんでこうもドキドキさせられるんだろう。
「……いいんだけどね。だって、私もしんくんのこと、好きになっちゃったんだもの」
目を逸らして、やや伏し目になる。照れてるのか、ちょっとほっぺが赤くなって可愛い。
ああ、そのほっぺに今すぐキスしたくなる。けどまだタイミングが早い気がして、我慢した。
「うん、けどいいんかな」
「何が?」
キョトンとして、今まであまり目を合わせてくれていなかったかおりちゃんがしばらく見つめてくる。
僕のこと好きになってくれるなんて『いいんかな』
大好きな子が、僕のことを好きになってくれて、今こうして……手を繋いでいるなんて。
繋いでる指がじっとしていれなくて、そわそわする。指先を何本か動かしてみたり、少しギュッと握りしめてみたり。
「こんなに幸せで」
「そんなに幸せ?」
「うん、こんなに幸せでいいんかな。にやにやが止まらなくて変になりそう」
彼女の過去とか、これから秘密にしなくちゃいけないとか……そんなことどうでも良くて気にならないくらい、一人で舞い上がってるんだ。
「変なの」
相手は、僕よりも冷静だ。だけど、距離が近付くたびに嬉しそうなのが伝わってくる。
嫌じゃないんだ、僕の事を好きだと言ってくれたのは嘘ではなく本心だと分かる。
だけど、前付き合ってた人の事がまだどうしてもチラついて離れないのが今の彼女だ。
「だって大好きなんやもん、彼女になってくれるやなんて。夢かな」
ほっぺをつねる仕草をわざとしてみせると、ふふっと笑ってくれた。
ころころと春の天気みたいに表情を変えるかおりちゃん。
どれもかわいいけど、やっぱり笑ってる顔はたまらなくかわいいなぁ。
「夢ちゃうよっ」
ふにゃふにゃと溶け出しそうな僕に、ピシャンと君の声が響く。
「そうやな」
「ほらっ」
途端彼女の手を握る力が目一杯強くなる。
意地悪そうにちょっと笑いかけてくる。
「おおっ、強い強い」
「痛かった?」
痛かった? と聞いている割には、面白そうにニヤニヤしてるんだけど。
ん……?
この子って、ちょっと子供?
それともちょっと「S」?? もしくは両方???
僕としてはちょっと「S」なくらいが、嬉しいけど…って、手を握り合ってるだけなのに何詮索してるんだろ。
「まぁちょっと…、痛かったかなぁ?」
「夢ちゃうよ、このお付き合い長く続けたいね」
「うん、ほんまやね」
僕はこんなに幸せだから、君にも沢山幸せになってもらいたい。
これから、どうなって行くのかな。まだ始まったばかりで予想もつかないけど、一緒にいっぱい笑って、沢山の幸せな瞬間を積み重ねていこうね。
*****♪
僕に彼女ができたんだ
それはそれはかわいいんだ
僕に彼女ができたんだ
今すぐ誰かに自慢したいよ
僕に彼女ができたんだ/SHISHAMO
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