エッセイ *恋愛
だって、家族ですから
[5/10]

『多分それは、罪悪感かな。』


 いつもの朝。

 私のアラームが煩く鳴って目が覚める。隣の、あなたもついでに目が覚める。もぞもぞ寝返りを打った後に短く唸って、顔をくしゃくしゃにさせていた。
 薄目を開いたあなたに、唐突に口走る。

「明さんと、セックスする夢見た」

 夢の輪郭はもうおぼろげだったけど、断片的に思い出すだけでもなんだか幸せな気分だった。

「欲求不満ちゃんやもんな」

 もたついた口調で、かすれかけの声がする。

「そうなんかな」
「うん」

 じんわり左側から伝わる体温を感じて、思わず笑みが溢れる。今日は目覚めがいいな、と直感した。
 ふと、また始まる微かな寝息に気がつく。起こして悪かったなと少しだけ気にしながら、隣に釣られるように布団を被り直して目を閉じた。

 暫くして、またアラームが鳴って、私だけ先に起き出した。慌ただしく準備を進める中、着替えていると今度は彼の携帯のアラームが聞こえる。止めても、時間が経てば何度かスヌーズで鳴り始め、また止めらる。
 メイクをしている頃にようやく、開ききってない目を擦りながらも彼はトイレに向かって起き出す。

「おはよー」
「おはよー……」

 化粧する私のお尻を普段通り撫でて通りながら、洗面所の向かいにあるトイレに滑り込んだ。
 トイレから出てくると横に並び、水だけでびじゃびじゃと雑に顔を洗う。

「どう? 風邪は治った?」

 タオルでゴシゴシ顔を擦っている彼に問う。

「んー……。どうやろねぇ、わからん」

 喉が痛いし、体がしんどいから風邪かもしれない、と言っていたので昨日の晩から風邪薬を渡していた。
 声に覇気がなく小さい、私は昨日のこともあって顔色を慎重に伺った。

 見ると、感情の色がまるでない虚ろな表情だった。はっきりとしない浮かない視線を泳がせていて、きちんとこちらを見ない。
 様子が気になったものの、化粧を終えた私はファンデーションのケースをパチンと閉じて定位置に戻す。

「じゃ、行ってきまーす」
「はーい、行ってらっしゃい」

 速足で階段を下りながら、私は昨日、明さんに「悪いこと」をしたんだ。と、ふと頭の中で振り返った。


――昨日のことだ。

「私は、浮気性だからね。だからね、しっかり明さんの事を確認しとかないとね。明さんの事こんなに好きなのにね、目移りしちゃうのが怖いからさ」

 後ろから抱きつたまま遠回しに、好きな人が出来そうになっていることを伝えたのだった。

「甘えんぼさん……」

 回した腕を彼は撫でた。曖昧過ぎて意図は伝わっていないようだった。正直、これ以上どう踏み込んで伝えたらいいか私はわからなかった。
 明さんの香りを目一杯吸い込み、髪の毛や首に頭を埋めた。

「……私。明さんが好きなのにね。それなのにね」
「……ん?」
「気になる人が出来そうで、嫌なの」
「……」
「だから、こうして明さんの香りをいっぱい感じて。肌の感触とか、全部覚えとかないと。明さんが一番大事で大好きな人なんだって、覚えとかないと。他に目移りしそうで怖いんだ……」

 沈黙後、彼がこちらを向いた。それで私をきつく抱く。

「好き……」

 普段は頼まなくても喋ってばかりのなのに、言葉はそれだけだった。


栞を挟む

* 前へ | 次へ #
5/10ページ

LIST/MAIN/HOME
© 2019 社会で呼吸