だって、家族ですから
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『ちゃんぽん麺』
もうちょっとしたら起きてしまうのかな。隣で寝ている彼は鯉みたいにぽっかりと口を開けて幸せそうな顔をしている。
どこか間抜けなのに、まじまじと見ていたくなる。
寝てるのをいいことに私は好きにほっぺをさすったり、おでこをこすってみたりした。そんなことでは起きないからぽっかりと空いた口の端に唇を付けてみる。ん……、と短く彼は唸り体を捻じった。
「起きた?」
「ん〜っ……。ふぁーい」
バカみたいなあくび混じりの返事をして、薄眼を開けたり閉じたりしている。
「もう12:45だよ」
「寝過ぎだね」
もぞもぞと寝返りをして彼がこちらに向く。
「腰痛くない?」
普段から猫背の彼は寝過ぎるとどうも腰が痛くなることが多いらしい。普段の倍くらい寝た後だから、なんとなく心配になって聞いてみた。
「まぁ、大丈夫かな」
こちらの心配など他所に、まだ寝ぼけているのにどさくさまぎれに手が伸びてくる。
その手は私の身体の形を確かめるみたいにあちこちに滑る。別にセックスがしたいから触っているとかではなくて、本人曰くただ触りたいから触っているだけらしい。
「何触ってるん」
「んー、気持ちがいいよ?」
ゆったりとした遅過ぎる休日の始まりは堕落していた。だけどその堕落した感じがいい。
こんな休日の寝起きでなければ、じっくり寝顔を観察することも寝起きにベッドでするピロートークの様な脱力感しかない会話のキャッチボールをすることもあまりない。
平日の朝は慌ただし過ぎる。そもそもそれぞれの部屋で寝ることの方が多いから、寝起きに一緒になってぐだぐだ出来ることは貴重だ。
「ねぇ、ご飯何する?」
「んー……」
「ラーメンとかでもいい? ほら、この前買ってきてくれた袋麺」
「ああ、あれなっ」
数日前に彼は、私がちょっと話の中であれ美味しかったよねと言ったご当地の袋麺をわざわざ買って来てくれた。お昼にささっと簡単に作れるもの、と考えて浮かんで来たのがそのラーメンだった。
「そういえば、達也さんはラーメン作るん得意だったよね?」
「え、あー……」
調子が良さそうな返事をしていた彼の、相槌のテンポが悪くなる。彼の口癖は、めんどくさい。
思い出したように口を突いて出たラーメン作ってくれたらなぁ、という含みのある問い掛けに多分この人はめんどくさいと思っている。
「めんどくさかったら、私作るよ。起きたばっかりだもんね」
めんどくさいと、先に言われてしまう前に私は彼に逃げ道を用意する。別に昼ごはん、どちらが作ってもいいし。彼はどうするか悩んで横で唸っている。私は黙っている。
「ヨシ! 俺が作るか」
意外な返しに少し驚いていた。まだ寝ぼけた感じが残っているのにやる気になってくれている。
「あ、本当? ありがとうー!」
休日の始めから手抜きが出来ると思うと私はワクワクしてきた。自然と感謝の声が弾んだ。
「あれはちゃんぽん麺だからね、野菜とかある?」
「うん、いっぱいあるよ。チャーシューはないけどね」
「じゃあ肉は冷凍しかない?」
「冷蔵に豚肉あるよー」
「ほいほーい、じゃあトイレでも行って作るわ」
「ありがとう。わーいっ」
もそもそと起き出して部屋を出て行った彼をベットの上で見送ってベッド脇のカーテンを開けた。
遮光カーテンから一気に光が差し込んできて眩しい。外はいいお天気で、また洗濯機でも回さなければならないなぁと考える。布団にもう一度転がってみると、嫌ほど寝たというのにまた気持ちが良くなってくる。
私は彼の作るちゃんぽん麺を楽しみに待ちながら、ころころと布団に包まって目を閉じるのであった。
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