エッセイ *恋愛
藍色の曖昧な世界
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『藍色の夜明け』


いつの間にか時間が経っていた。もう、こんな時間か。
電気の点いた部屋でも、窓のカーテンが明るくなっているのが分かる。
外ではスズメが鳴き始める声が聞こえた。

「さて、そろそろ帰りますか」

「ねぇ。泊まって行けば?眠いでしょ」


ナミの髪を撫で下ろす。そのまま何度か手櫛で、整えるとも乱しているのかも分からないことをする。指をすり抜けていく髪の毛のパサパサした、くすぐったいような感触が心地よい。


「もっと居てほしいんですか」

「どうせまたナミには直ぐ会えるよ」

「可愛くないなぁ」


指先が髪を掻き分けて耳をかすり、頬骨に行き着く。伏し目になる貴女を見てると、ここをまた舐めてあげたくなる。

帰るの早いよ。
居てほしいってのは当たってる。もっと二人で余韻の残るまったりとした時間を楽しんでたいのに、というのが本音。

「ちょっと疲れたんじゃないの?たがらそのまま休めばと思って」


でも変なとこで微妙に素直にならないのが私。添えていた手を離した。


「ま、大丈夫ですよ」

微笑んでナミはジーンズに足を通し始めてしまう。帰る支度に取り掛かる姿を仕方なく見守る。
引き止めるのをやめようと思った。


「また来ますから」

「うん」





「あ…、ハルエの事好きですよ」

「………ぅ」



言葉に一瞬つまり俯く私の頭を、今度はナミが撫でる。


「私も、ナミが好きだからね」



「はい。あ、顔を上げて下さい?」

「ん…」


お別れの短いキス。



「ではまた」






少ない荷物を持って玄関へ向かうのを見送る。
ドアを開けたら朝のひんやりした、涼しい空気が入ってきた。


※「あい」ではじまる20題より

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