エッセイ *恋愛
だって、家族ですから
[8/10]

『犬みたいな父みたいな人』


〈居ないと寂しい、居るとうっとうしいもの、なーんだ〉

 胸の内で一人、思いついた謎のクイズを唱える。もういつのまにか時間は零時だ。そろそろ寝ないといけない。部屋の中は静かで、掛けていたCDもだいぶ前に止まっている。いつもの耳鳴りがシーンと聞こえていた。

 ああ、クイズの答え言ってなかったな。
 私のことをよく知る人なら、簡単過ぎるものだよ。

〈答えはねー、夫の『つよしさん』でしたーっ〉

 得意げに、あまり捻りもない内容をいつもの調子でひけらかしてみる。
 ちなみにいつもの調子とは、しょうもない思いつき(謎のクイズ)を子どもみたいに彼に問う一連の流れのことだ。
 クイズはいつも大した内容ではなかった。訊ねた所で彼が答えを当てた試しはなく(そもそも当てるつもりはないのか)、私がこのように種あかしをするのが常だった。

 まだ、彼は家に居ない。
 晩ご飯のうどんを一緒に食べた後は、そそくさと洗い物を済ませてギターの練習をしに出て行ってしまった。

 耳鳴りしかしないこの部屋で、私はおやすみも言わず寝支度をしようとしている。
 彼が居たらいたで、混ざり合う遠くのテレビの音が鬱陶しかったり、ちょっとした要件の確認のつもりがくだくだと長話になって面倒に感じたり、ソファーで寝転がってくつろいでいると、甘えた犬みたいに執拗にじゃれつかれる羽目になったりと騒がしいけれど、慣れてしまった。
 彼が居ると大したことをしていなくても早々と時間が流れた。

 因みに私は今日、風邪をひいて仕事を休んだ。部屋からは一歩も出ておらず、会話はつよしさんとしかしていない。
 だるさで心が弱ってきているのもあってか、ありあまる時間が私をどことなく寂しくさせていた。

 私が、寂しいと思うなんてね。
 元々一人暮らしを長いことしていたが、二人暮らしになって二年半くらい経つ。
 毎日顔を合わせているせいで、知らず知らずのうちに随分構ってちゃんになってしまっていたことに少し呆れた。

 眠たくて大きな欠伸が勝手に出る。眉がうんと上がったせいで、おでこに貼った冷えピタが剥がれそうになったから、慌てて押さえつけた。

 ふと、自転車の車輪がカラカラと音を立てて駐輪場に入ってきたのに気付く。私の部屋の窓は、駐輪場の真上でよく音が入るから分かりやすい。
 軋むスタンドの音とギグバッグが身体に擦れる音で、彼が帰ってきたんだと思った。

 どうしよう、おやすみって言うために少し待とうかな。でもおやすみを聞こうとしたら、他の話が長いんだろうな。
 玄関の鍵を開ける音がガチャンと響いた後、内階段を上る彼のスリッパの音がする。私はベッドの上で耳をそばだてていた。

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