創作小説 *恋愛
歌詞を小説に
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『溶ける』




 朝目が覚めて、真っ先に

 思い浮かぶ君のこと。

 思い切って 前髪を切った

 どうしたの? って聞かれたくて

 ピンクのスカート お花の髪飾り、

 刺して出掛けるの

 今日もわたしは かわいいのよ




「あ、なつみ前髪切ってる」

登校して取りあえず席に着いた所へ、挨拶なしに貴女はこちらを覗き込んで軽くなった前髪に触れてきた。

「うん、自分で切ってみた」

おでこがくすぐったくなって、目を細めてしまう。

「通りで真っ直ぐじゃないわけだっ」

「わざとですー。アシメでギザギザにしてみたのっ」

笑いながらのどかは不揃いな前髪に沿って髪を撫でてくれたが、通りで真っ直ぐじゃないわけだ、なんて言われてしまっては失敗したかなぁと不安になってくる。

すると急に、パサパサと私の髪を散らすような撫で方に変わった。

「可愛い、似合ってる」

のどかはそう、ふにゃりと笑ってくれた。単純にそれだけで嬉しくて、溶けてしまいそうになる。

可愛いって言ってくれた。髪切って良かったんだ。

「ふふっ。今度のどかの髪も切ったげようか?」

恥ずかしくなって目を合わせられないけど、機嫌がよくなった私は提案してみる。

だけど、のどかは考えとく、と苦笑いするだけだった。




*******************


「えー、何で?」

のどかと下校しようとした時、天気予報が嘘をついた。

「あたし傘なんて持ってないよー…」

土砂降りの雨が降る。

「私は一応持ってるけどね」

でも鞄に入ったままの折りたたみ傘なんてうれしくない。だって折りたたみ傘なんかでは小さ過ぎて、相合い傘などままならないもの。
小雨ならまだしも、この土砂降りだし余計にだ。

「……でも、傘小さいや」

ため息をついた。

そんな時、しょうがないから入ってあげる、なんて隣に居るのどかが笑った。
ピタリと寄り添ってきて、離れないで二人で近づいて傘入れば、まだ濡れるのマシなんじゃない? とこちらを覗き込む。


雨粒の音とは別の、恋に落ちる音がした。


のどかに促されるまま傘を開いて、差してみる。

高鳴る胸と半分この傘。

いつもより近い距離のせいで息が詰まりそう、触れてる右手が震える。




手を伸ばせば届く距離。


思いよ届け君に…




「今日は傘に入れてくれてありがとね、助かっちゃった」

「いいえ、でも結構濡れちゃったね」

「仕方ないよ」


この狭い空間に憧れはしていたものの、こんなに特別な物だなんて思わなかった。

お願い時間を止めて、あんまり近くて泣きそうなの。

でも嬉しくて死んでしまう。



*******************



 駅に着いてしまう。

 もう会えない、近くて遠いよ。

 だからせめて手を繋いで歩きたい。

 もうバイバイしなくちゃいけないの?

 今すぐここで抱きしめて。



 …なんてね。



*******************




「実は学校に、置き傘あったんだよね」

雨でずぶ濡れの右肩を無意味にはらいながら、私に向かってのどかは笑っていた。

「なんで取りに行かないのっ」

「だって面倒だったし、それに…じゃあまた学校で!」

改札をすり抜けて逃げていく姿に、もうっと叫んだ後小さく手を振った。





 恋に恋なんてしないわ。

 だってわたし、君のことが




 …好きなの。





初音ミクの「メルト」より歌詞引用

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