創作小説 *恋愛
歌詞を小説に
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『緑色をした残骸』


 あいつは案外面食いだったのかもしれない。なんせ別れてものの数ヶ月で、私と対照的なモデル系の女と付き合っているのだから。
 なんだろう、この心が粉々にされるみたいな焦燥感は。画面越しに垂れ流される彼の近況に、どうしようもない苛立ちを感じていた。

 私と別れて、さぞかし充実しているんでしょうね。
 そういや山登りとか興味あったんだっけ? インドアの私と『同類』だと思ってたんだけど、違ってたの?
 言わずもがな、アウトドア派への転向はあの女の影響なんだろうけどね。ほんと分かりやすくて、呆れるくらい。

 あんたのこと、愛してたのかな。今更もうよく分からなくなってきた。なのに、いまだに付き合ってた頃のことばっか思い出してる。この堂々巡りにこそ、呆れるくらいだね。

 ――全部知ってたよ、あの狭い1Kのマンションのこと。
 ――ねえ、まだ怒ってんの?
 ――あんたに投げつけたアボカドのこと……。

 別れてから私さ、びっくりするくらい空っぽなんだよ。まさに抜け殻って感じ、笑えるよね。ただ、毎日を無意味に過ごしてる。だらだら虚無にまみれて、無気力で、埃を被ったまま生きてるみたい。

 映画でも観て、この虚無を誤魔化そうとしてみたよ。
 あ、映画で思い出したけど、あんたに言われた映画にでも出てきそうなくらいの甘ったるい口説き文句なんだけどさ。あれ付き合うための常套句だったんでしょ。そんくらい分かってんだからね。

 ――あの日。冷蔵庫から掴んだアボカドを思い切り投げつけた。
 そうして疲れて、彼の部屋のフローリングで眠った。
 目が覚めると、無惨に潰れたアボカドが床に転がっていた。
 寝ぼけた頭で考えてみる。
 腹を立てた彼が握り潰して置いたのだろうと予想はついた。
 頭の違和感から手を伸ばすと、固形物が髪に絡まっている。
 指先に、ぐちゃぐちゃな色がへばりついていた。

 こんなザマでも、愛してたんだろうか。今はあんたの全てを嫌いになりたいよ。
 そもそも、愛されてたんだろうか。あんたは本当のところ、愛してたの? どうなんだろうね。

 あれもこれも、いつまでも錆びみたいに残ってる。
 あんたの泣き顔だって頭にこびりついてて、ありありと浮かぶよ。
 今更こんなこと気にしたって、いい加減馬鹿だとも思うけど。
 こんなでも、待ってたこともあったんだよ。
 まあもう、おしまいだけど。

 ――ぐちゃぐちゃになっていたアボカドが、絡みつくみたいに消えやしない。
 ――露わにされた憎しみが、今も鮮やかな色で迫ってくるよ。


アボカド/yonige

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