袖を握っててもいいかい

幼馴染の聖くんから渡すものがある、とLINEが来た。
やった!聖くんに会える!
聖くんから連絡が来たのが嬉しくて思わず飛び上がったら友達に変な目で見られてしまった。




聖くんとは幼稚園の頃からの仲だ。
とはいっても常に一緒にいるわけでは無く、大抵私は女の子の友達と、聖くんは1人でいるのが好きみたいでなにか難しい本を読んでいたりしていた。
それでも気がつくと隣にいるのは聖くんで、例えば苦手なピーマンが給食に入っていたりした時は何故か隣の席に座っていてニコニコ頬杖をついて辛そうに食べてる私を眺めていたり。結局は「仕方ないなぁ」と食べてくれたけれど。
授業でコンパスを使うのに忘れてしまって青ざめていた日は2個持ってるからと言って違うクラスなのに貸しにきてくれたり。私何も言ってないのに。
修学旅行でどうしても観たいアニメがあったとき、同じ部屋の子達がブッキングしているドラマの話題で盛り上がっていて諦めていたら「俺の部屋に来る?今なら誰もいないし」と声をかけてくれて一緒に観たりした。

聖くんはとにかくタイミングが良いのだ。
そして私の考えてることがびっくりするほどわかっている。
エスパーなのかもしれない。




いつもの公園で待ってて、と言われて
学校が終わってから即行で向かったけれど、まだ聖くんは来ていなかった。
渡すものって何だろう。
前に貸した漫画は返してもらったし、夕飯のお裾分けは聖くんのお母さんが昨日届けてくれたばっかりだ。


ギーコ。ギーコ。
誰もいない公園でブランコを漕ぐ。
ここも、聖くんと小さい頃よく遊んだ場所だ。

「俺的にはその格好でブランコは良くないと思うけど」

声のした方向に振り向くと、見慣れない制服を着ている聖くんが立っていた。
私とは違う高校の制服を着ている、聖くん。


「どうして?」

分からなくて首を傾げると、聖くんは「これ」と言って私の制服のスカートの先を摘んでヒラヒラとさせた。
制服?
ああ!いい歳してブランコはやめなさいということか!

「高校生でもブランコには乗るよ!」
「…相変わらずなまえは察しが悪いなぁ」

そういことじゃないんだけどと呆れたように苦笑いをされてしまう。
じゃあどういうことなんだろう。
聖くんの考えてることは難しくてたまによく分からない。

「聖くん、学校はどう?」
「普通かなぁ。まあ、思ったよりも楽しめそうだけど」

何かを思い出したように、聖くんが目を細めてフワリと笑う。
今までなら知っていたはずの聖くんの友達や、学校のことを知らない私には何を思って笑っているのかがわからなくて、なんだか変な感じだ。

「俺のことより、なまえはどうなの?世間知らずだから心配してたんだよねえ」
「聖くんに心配されなくてもちゃんとやってるもん!」
「あはは。とか言って弁当忘れて登校したりしてそうだなあ」
「う、それは……!」

図星だ!
今週に入ってからもう3度も忘れて購買に走っている。
聖くんはどうしてこうも鋭いんだろう!

タラタラと汗をかきながら聖くんを見ると「あ、図星?」と顔を覗き込まれる。
ううう。

「降参…」
「なまえは俺がいないと駄目みたいだね」
「そうみたい」

はぁ。
聖くんに心配させたくなかったのに。
ちょっと落ち込む。
シュンと俯いていると、何かがピラリと視界を遮った。

「そんな駄目ななまえにはこれをあげるよ」
「なあにこれ」
「綾薙祭のチケット」

俺の踊るところ、観たがってたでしょ。そう言った聖くんの言葉に、勢いよく反応する。

「え!聖くんついに踊るの!?」
「あはは。機嫌直るの早いなあ」
「だって、聖くんのダンス大好きだもん!」


中学卒業間際に、聖くんと別々の高校に行くのが嫌でミュージカルが憎いとしくしく泣いていたら目の前で踊ってくれた聖くん。
あれから私は、聖くんのファンだ。

「聖くんのダンス大好き!」
「うん。知ってるよ」
「歌声も好きだよ!」
「照れるなあ」
「踊ってる時の表情も好き!一回しか見たことないけど!」
「……うん」
「衣装もきっととてもよく似合」
「ちょっとストップ」

え!まだ言い足りないのに!
文句を言おうとすると、 背中を向けられてしまった。
ため息混じりに「勘弁して…」と聞こえた気がする。

「聖くん、大丈夫?どうしたの?」
「ほんとなまえって単純というか…廉みたい」
「れん?」

誰だろう。
綾薙学園の人だろうか。



「俺はなまえのことが本当に心配だよ…」
「なんで私?そんなことより!ペンライト持って行くね!団扇もこれから作るから!」
「やめてね。それは絶対にやめて」


聖くんのダンスを観に行ける。
胸をいっぱいにしながら貰ったチケット眺める。
聖くんにありがとう、とお礼を言おうと隣を見上げると、愛おしそうなものを見る目でこちらを見て微笑んでいて、なんだか胸がキュンとした。