プロローグ



 好きな本を読んで、好きな音楽を聴いて、好きなジャンルの小説を執筆する。
 人生に価値を見出せなくなった私の日常は、ひどく惰性的だせいてきだ。
 それでもささやかな幸せを糧に、生産性の無い無意味な生活を繰り返す。

 もし、今生の記憶が来世へ引き継がれて、新しい人生を送れるのだとしたら。
 新しい人生で幸せになりたい。
 私を愛してくれる家族が欲しい。

 我儘だと解っていても、願わずにはいられない。


 ――もしも叶うのなら、幸福で自由な人生を手に入れたい――


 そんな願望を脳裏に浮かべ、私は二十代という若さで一生を終えた。



◇  ◆  ◇  ◆



 頭が痛い。体中が重い。呼吸がままならなくて辛い。
 どうしてこんなに苦しいのか。頭が働かなくてぼんやりする。

 ……あれ? 私、どうして肉体の感覚を知覚しているの?
 確か、自転車に乗っている時に事故に遭って……あれ? 自転車って何?

 頭の中がぐちゃぐちゃする。気持ち悪くて吐きそうだ。
 体が言うことを聞かなくて、寝返りすらできない。

 ズキズキと痛む頭を必死に働かせて、思い出す。


 私の名前。
 私の家族。
 私の母国。


 そうだ。私は、日本人女性として生きていた精神障害者だった。
 苦痛ばかりの人生が唐突に終わった――――はずだ。

 自覚した途端、頭痛が引いた。吐き気も治まり、呼吸も楽になる。
 倦怠感けんたいかんはそのままだが、眠気が押し寄せてきた。

 今、いろいろ考えるより回復に専念しよう。
 多少の疲労感を滲ませて、私は再び意識を手放した。



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