『属性無し』



 輪廻転生りんねてんせいをごぞんじだろうか。
 英語ならリインカーネーション、サンスクリット語ならサンサーラ……とも言われているが、一言で判りやすく表すなら生まれ変わり=B

 生前の記憶を持って、生前の関係者の目の前に現れる都市伝説もある。
 世の中には生前の記憶を自覚せず、生前と同じ行動をとる人もいた。有名な画家だった前世を持つ男の子が、幼少に前世と同じ絵を描く――なんてことも実在していた。


 私――花咲はなさき有珠ありすは、その前世の記憶を持った転生者だ。


 とはいえ、都市伝説のようなものでも、実話のようなものでもない。
 ただ転生の自覚を持つだけではない。

 今世は生前の世界と違う、いわゆる異世界≠ネのだ。

 例をげるならいくつもあるけど、一番はっきりとしているのは魔法≠フ存在。
 前世では魔法や魔術の概念がいねんはあっても実在しなかった。何世紀にもわたって行われた魔女狩り≠ニいう大虐殺の原因となった、悪魔と契約を交わした女性――魔女なんていう根も葉もない歴史はあったし、霊能者・超能力者・占い師も少なからずいたけれど。

 今世では、前世でいうファンタスティックな力である魔法があるのだ。


 しかも、前世と同じ惑星――地球で。


 地球なのに、前世と同じようでいてことなる力や文化がある。これがいわゆる並行異世界≠ネのかと、まるで娯楽小説のような現実だと、複雑な気持ちになった。

 小説は事実より奇なり。まさにそれだ。

 せっかくだから現代ファンタジー≠ネ世界を謳歌しよう――そう思ったが、人生の壁に突き当たった。

 魔法を使える者の呼称は、男女問わず魔法使い=B
 魔法を操るには魔力が必要で、系統魔法を使うには魔力属性≠ェ必要不可欠。

 けれど私は、一般的な属性や、数少ない属性を持たなかった。
 五歳になる年に調べられる子供達の中で、一人だけ。


『属性無し』――人類の一割以下が、魔法を使えない無能者。
 私は、最も希少な存在である『属性無し』だったのだ。


 大人には憐憫れんびんの目を向けられて。
 同年代の子供にはさげすまれて。
 家族には腫物扱はれものあつかいされて。

 立て続けに起きた精神的なショックがたたり、高熱をおこして寝込んでしまった。


 この高熱で『有珠』は前世の記憶を思い出した。
 幼い自我が『私』という人格と融合して、成人同等の自我が形成された。
 これがきっかけで高熱が治まり――花咲有珠は覚醒した。



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