新たな居場所



 一応、ヒイラギとアズサを鑑定してみる。


名前:ヒイラギ
種族:精霊[獣型:天狐]
位階:上位[序列第一:神位]
魔力:S/2660000
神力:S/2050000
属性:火・風[雷]・地[鋼]・光[聖]
能力:変化・隠遁いんとんの術・狐火・神火・狐風・神風・神通力・千里眼・時手繰ときたぐ
契約:チハル・サカキ
恩恵:言語理解・幸運・神宝召喚[神武天鎌しんぶてんれん]・浄化・宝物庫
詳細:神位をかんする異世界の最上位精霊・天狐。戦闘能力は高く、能力も多彩。傲岸不遜ごうがんふそんだが義理堅く情が厚い。



名前:アズサ
種族:精霊[獣型:鵺]
位階:上位[序列第二:天位]
魔力:S/2080000
神力:A/990000
属性:水[氷]・風[雷]・光[聖]
能力:変化・言霊・治癒・浄化[補正]
契約:チハル・サカキ
恩恵:言語理解・幸運・神宝召喚[破魔梓弓はまあずさゆみ]・浄化・宝物庫
詳細:天位を冠する異世界の上位精霊・鵺。治癒能力を具え、言葉の霊威を操る。穏やかで優しい性格。


 とんでもなくハイスペック。私の【式神契約】による恩恵も凄かった。
【式神契約】という能力は、ただ相手を『式神』という術者の眷属に降すだけではない。それだけでは魔獣を手懐てなずけて使役するテイマーや、精霊と契約した精霊師と変わらない。
【式神契約】の凄味すごみは、式神の能力の影響を受けて、術者の能力値が高まる。
 そしてそれは術者だけではなく、式神も同様。

 メリットは、複数の生物・非生物と契約でき、一部の能力値――身体能力などが微々たるものだが高まり、式神の魔力・神力の量の半分くらいの恩恵を貰える。同時に術者の能力値も式神に反映され、術者の能力の影響を受ける。

 デメリットは、式神をやしなうための魔力が必要になること。式神を戦わせる時に力を送ることができるが、魔力または神力の消耗しょうもうが激しい。

 私の魔力は五〇〇万だから、二人以上でも余裕だった。
 けれど今回の契約で、魔力だけではなく神力が大幅に増えた。
 三柱の神様の祝福で三〇〇万だったけど、ヒイラギとアズサの神力の恩恵を合わせて四五二万。

 これなら、あの神術が使えるはず。
 私が独自で考えたものだけど、今まで実践できなかったから、成功するか判らない。
 でも、幸いにも私は空属性がある。これを媒介ばいかいにすれば……。

「チハル、何を考えている」
「……うん。家を作ろうかと思って」
「家、とは……資金はあるのですか?」

 ヒイラギの質問に答えると、アズサが不安そうに訊ねる。

「大丈夫、お金はいらない。アズサ、ちょっと下ろして」

 不思議そうな顔で私を見下ろす二人。
 私は地面に足をつけると、深呼吸をして意識を思考の海に沈める。


『――告げる。チハル・サカキの名にいて、我が領域を創らん=x


 イメージは、前世の我が家だ。
 桜の森の中にある九十九段もある千本鳥居の石段の先に、かぎ宝珠ほうじゅをそれぞれくわえる狐の石像が正面に構えられた朱塗りの楼門ろうもん
 門の向こう側は石畳の境内けいだい。手洗い場や拝殿はいでんの奥に、大きな日本屋敷。
 銀杏いちょうかえでの紅葉を楽しめる裏庭には、橋が掛かるいくつもの中島、中央には立派な東屋が建つ広大な池泉回遊式ちせんかいゆうしき庭園。奥にある滝が見える陸には、椿と枯山水かれさんすい庭園が美しい茶屋が建つ。
 千本鳥居は桜、表の庭園は江戸彼岸と藤、外は綺麗な大自然が広がる、美しい世界。


其処そこは次元の狭間はざまにして、我が領域。支配権は我にあり=x


 何者かに乗っ取られようとも、私が支配者。
 私が殺されない限り、誰かにゆずらない限り、そこの君臨者は私。


『我が領域に平安を。我が眷属に安息あんそくを。我が善良なる友に歓待かんたいを=x


 何者にもおびやかされない私の世界。
 私の家族が自由に出入りできて、友人と認めた者は受け入れられて。
 みんなが安心して過ごせる、最高の我が家を。


『チハル・サカキの名の許に、創造せよ――【幻想郷】=x


 最後の術名で締めくくれば、ごっそりと神力が減っていく。脱力感が襲いかかっても踏ん張り、異次元に世界を構築する。
 目を閉じてその光景を見届け、最後に巨大な榊の神木が広場の中心に聳え立つと、力が抜けて座り込んだ。

「チハル!」

 アズサが私の背中を支える。彼女の手の温もりに、ほっと息を吐いて力無く笑った。

「成功、したよ」

 ゆるんだ明るい笑顔で言えば、二人は深い溜息を吐き、ヒイラギが私の頭をはたく。

「無茶をするなと、前世から言っているだろう。いつになったら学習する」
「あはは……。まあ、無茶はするよ。……でも、無理≠ヘりだから」

 前世ではたくさん無理をした。結果、追い詰められて死んだ。
 だから私は、無茶はしても無理は控えようと決めている。

「帰ろう。我が家へ」

【開門】と唱えると、大きな鳥居の門が現れ、扉が開かれる。
 ヒイラギに抱き上げられ、三人で門を潜った。


 扉が閉ざされた直後、スゥッと消える鳥居。
 公園にあった人の気配は、こうして無くなったのだった。