魔女




 どの世界にも理不尽はある。

 数ある差別用語の中に、『黒持ち』という言葉があった。
 黒持ちとは、体の一部に『黒』を持つ人間のことを指す。
 何故なぜ、それが差別用語になるのか。その理由は、常人より高い魔力を持つあかしだから。

 魔力を持つ者は出世しやすいけれど、強すぎると制御が難しく、人々に恐怖を与えてしまう。


 私――シーナは、その差別用語に当てまる一人だった。
 とはいえ、私は魔力の制御を難しいと感じたことがない。魔力を暴走させて、人を傷つけたことはない。

 けれど、世界は無情だ。黒持ちということだけで、私は村人達に嫌われている。
 さらに言うと、私はヘテロクロミア。左右で異なる色を瞳に宿している。
 虹彩異色症こうさいいしょくしょうとも呼ばれているヘテロクロミアに差別用語はないけど、他人に気味悪がられて嫌われる対象になりやすい。
 黒持ちでヘテロクロミア。そのせいで村に居場所がない。



 ――何故、『この世界』という言葉を使うのか。
 それは、私が異世界から転生した人間だからだ。

 私の前世は地球と呼ばれる、魔法の概念がいねんはあるけど実在しない世界。自然が激減する代わりに科学が発展し、文明の利器が多く生み出された。
 それに比べて、この世界は緑豊かだ。魔法があるおかげで発展しすぎないし、綺麗な環境を保てている。

 あと、地球と違うところは、人間が国を統治しているのではない。
 竜が世界を掌握しょうあくしているのだ。

 唯一神マカリオスの使いである竜神が生み出した竜の王――竜帝と竜王によって、国は統治されている。

 その昔、大陸中で戦争があった。それを止めたのが竜だった。
 偉大な竜によって大国が出来上がり、今では平和な暮らしができている。

 ちょうどいい時代に生まれて安心した。じゃないと戦争の道具にされ兼ねないから。

 現代は平穏。けれど、私はあまり平穏無事に過ごせていない。村人達に嫌われ、何度も石を投げられたり嫌がらせを受けたりしているから。
 でもまぁ、転生したからか結構図太くなったおかげで、今ではしたたかに生きている。

 十歳頃に両親、三年前に祖母をうしなって孤独になってしまったけれど。
 何にも縛られずに自由気儘きままな人生を送っていた。



『シーナ、今日は何をするんだい?』

 ある日の朝、友達であり家族である青年が家の中に現れた。
 端整な顔は中性的だが、凛々しさと美しさのバランスが良くとれた凄艶せいえんな美貌。人間ではないため、耳の先はエルフのようにとがっている。服装は、金や銀のアクセントを入れた紫色のマントに、白金色の布地に金や銀のアクセントがある、まるで王族が着るような高貴な礼服。
 綺麗な白金色の髪プラチナブロンドに凛々しい金目銀目が美しい青年は、人間ではない。

 彼は精霊王だ。


 この世界には自然界の力をつかさどる各精霊の頂点に立つ大精霊が存在する。中でも彼は、唯一神マカリオスの分身で、全属性を司る精霊王。
 何故だか知らないけど、私を気に入って契約を持ちかけた。
 契約は名前を与えることを望まれるか、元々ある名前を教えられるかのどちらかで成立する。
 私は彼を『コスモ』と名付け、今では家族のように普通に接している。
 本来ならあがめられる存在と『普通』に接するなんて無理だけどね。

「今日は森に行くよ。そろそろ食べ物を調達しないと」
『それはちょうどいい。今、林檎が実っているから、案内しようと思っていたんだ』
「本当!? ありがとう!」

 この世界でお菓子を見たことがない私にとって、果物がご馳走ちそうだった。
 瞳を輝かせてはにかめば、コスモは「どういたしまして」と穏やかに微笑んだ。

 簡単な朝食が終わるとかごを持って森に入る。コスモの案内を受けて深いところまで行くと、大きな林檎の木があった。
 ここの林檎は毎年楽しみにしているほど美味しい。他の場所には野生の桃や洋梨の形をした果物がある。

 木に登って採りたいけど、この数年で髪が腰まで伸びたから枝に絡まったりする。髪が抜けるのは勘弁かんべんしたいから、地魔法で重力を操り、浮き上がって採る。それを繰り返していると、籠にたくさんの林檎が山のように積み上がった。
 せっかくだから採り立ての林檎を皮ごと食べる。瑞々しくて爽やかな味わいが美味しい。

「ん〜、美味しい〜! コスモ、ありがとう」
『喜んでくれて嬉しいよ』

 はにかむコスモに癒される。普通なら見惚れるだろうけど、私は免疫めんえきがついているから平気だ。
 お礼に私の魔力をあげて、重力操作で軽減させた籠を持って村の近くに戻った。




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Aletheia