01-02




「魔女さま!」

 昼過ぎになって家に入ろうとしたら、村の方角から子供の声が聞こえた。

 魔女。これは私の蔑称べっしょう
 黒髪でオッドアイだから、大人と同年代の子供達からさげすんで呼ばれる。
 けれど、彼らより幼い子供達からは敬称として使われている。
 子供達から「魔女さま」と呼ばれるのは嫌いじゃない。むしろ好きだ。

 声がした方に振り向くと、三人の男の子や女の子が集まってきた。

「どうしたの?」
「遊びに来たの!」

 嫌われ者のはずの私は、子供達にしたわれている。
 それは、私が三人の中の女の子を助けたことがきっかけだった。

 私から逃げようとしたけど転んでしまい、膝を擦り剥いてしまった。すごく痛そうだったから治してあげるとなついたのだ。
 あれから二年。子供達は親の目を盗んで遊びに来ている。
 この世界の子供の遊びを知らない私は、前世の古い遊びを教えている。

 あやとり。お手玉。縄跳び。かごめ。花一匁はないちもんめ
 紙飛行機も教えたいけど、紙は一般では流通していないから断念。
 全部日本の古い遊びだけど、子供達に好評している。

「今日は何する?」
「ハナイチモンメ!」

 三人とも、声を揃えて言った。

 はないちもんめは、実は怖い意味がある。『花』は女の子のことを指し、『一匁いちもんめ』は女の子を買う時の単位。値段をまけて悲しい売り手側と、安く買って嬉しい買い手側の様子を歌ったものだ。
 でも、それを知らない子にとっては、退屈しのぎにちょうどよかった。

 まず、グーパーで二チームに分かれ、交互に歌う。

「か〜ってうれしいハナイチモンメ」
「まけ〜てくやしいハナイチモンメ」

「あの子が欲しい」
「あの子じゃわからん」
「「相談しましょう、そうしましょう」」

 そんな感じで、私は一緒のチームになった男の子と相談する。

「誰がいい?」
「……えっと、エリンがいい」

 エリンという女の子は、子供の中では結構人気の高い愛らしさを持つ子だ。
 ふわふわの茶髪に大きな飴色の瞳の愛らしいエリンは、この二人の男の子に好かれている。
 泥沼関係にならないといいけど……。

「「き〜まった!」」

「エリンが欲しい!」
「魔女さまが欲しい!」

 何でいつも私を欲しがるのかなぁ。男の子の方も選んであげてよ。

 選ばれた者がじゃんけんする。勝ったのは……。

「やった! 魔女さま! こっち!」

 エリン側が勝った。
 それにしても……。

「人数少ないと、すぐ終わっちゃうね」
「じゃあ、他の遊びにしようぜ! 何かない?」

 活発な男の子が期待感溢れる眼差しを向けてくる。
 他の遊びと言っても……あ。

「じゃあ、『小鬼さんがころんだ』にしよう」

 本当は「だるまさんがころんだ」という遊びだけど、この世界に達磨だるまという置物は存在しないから、魔物である小鬼――ゴブリンの別称――にした。

 遊び方を説明して、じゃんけんで鬼役を選び、鬼役から離れたところでスタート。

「こお〜にさんが……こ〜ろんだ!」

 男の子が振り向くと同時に、ピタッと止まる。けれど、鬼の男の子がバランスを崩して動いてしまう。

「あっ、動いた!」
「ちぇー。魔女さま、エリン。勝ってよ!」
「うん!」

 エリンが動かず笑顔で返す。
 そんな感じで、人間に見立てた一人にタッチして、決められた歩数を進んで近くにいるエリンにタッチして、交代する。

「これ面白い!」
「魔女さま、みんなに教えていい?」
「いいよ。じゃあ、ちょっと休憩しよう。林檎があるから、剥いてあげるね」

 籠に入れてある林檎を見せると、三人は目を輝かせて喜んでくれた。
 家の中で林檎を切って、ウサギの形にする。これは三人の好きな切り方だ。
 林檎を食べ終わらせた子供達は満足したのか、手を振って帰って行った。

「さて、と……。何しよう?」

 まきもある。ご飯もある。果物もある。水は……魔法で何とかなる。

 魔力によって、作り出される水の質も変わる。私の魔力は精霊王が好むほどだから、魔力によって作り出される水は、山頂の湧水のような美味しさがある。
 木のコップに魔法で水を注ぎ、一杯飲んで一息つくと、家の扉を乱暴に叩く音が聞こえた。

「おい、魔女! いるんだろ!?」

 ……今度は大人の男。たぶん、何かあったのだろう。
 ちょっと気が引けるけど、扉を開ける。

「何か用?」
「息子が倒れたんだ。治せるよな?」
「症状は? 熱っぽいとか、せきが出るとか、骨を折ったとか、どんな感じなの?」
「……熱っぽくて咳ばかりしている」

 あぁ、たぶん風邪だ。
 仕方ないから林檎をいくつか入れた籠を持ってついて行った。



 私の家は村の外れにあって、十分ほど歩いたところにデオマイ村がある。
 村に入った途端、外で立ち話をしている主婦や、田畑をたがやしている働き者の男や同年代の子供が嫌な目を向けてくる。
 本当に気分が悪い。でも、これがここでの普通=B

 男の家に入って、子供の寝室に入る。
 寝室には、私によく石を投げつけてくる少年がいた。

 あー、この子か。そう思いながら診察して、魔法で免疫力を上げてから解熱させる。
 本当は声に出した方がいいけど、こういった特殊な魔法は無詠唱が一番安全だ。私は無詠唱でも魔法を使えるから、本当によかった。

「――はい。あと一日か二日もすれば元気になるよ。それと、風邪の時は果物が一番だから、この林檎をすり下ろして食べさせてあげて。で、報酬は?」
「……黒パン三つだ」
「あと、野菜も付けて。林檎もあげるんだし。普通ならお金を取られるんだから、安いものでしょう?」

 そう言うと、男は舌打ちして籠に報酬を入れた。
 助けた人に対してこの態度はいただけない。

 あー、心が荒むわー。





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Aletheia