10-03




 買い物が終わって城に戻ろうとする頃には雪が降っていた。
 しんしんと降る雪が頬を撫でる中、宮廷魔術師用の居住地まで送ってくれた。

「今日はありがとう。すごく楽しかった」
「こっちこそ。……俺も、こんなに楽しいのは初めてだ」
 自分に向けて言葉みたいだったけど、ちょっと大袈裟だ。
 クスッと笑った私は、紙袋の中から正方形の箱を取り出す。

「これ、プレゼント」

 白い紙で包装された箱に、アレンは目を丸くして恐る恐る受け取った。

「……開けても、いいか?」
「うん、どうぞ」

 頷けば、アレンは丁寧に包装紙を剥がし、木箱のふたを開ける。
 そして目を見開き、懐中時計を手に取った。

「これは……高くなかったか?」
「まぁ……でも、いろんなものをくれたから、そのお礼だよ」
「いろんなもの?」

 含みのある言葉に反応したアレン。
 せっかくだから、この際言っちゃおう。

「私……アレンと出会わなかったら、ずっと村に閉じ込められていたから。アレンと出会って、私の世界は広がって、色付いた」

 理不尽ばかりがこの世界なのだと思い込むことで理性を保ち続けていた。辛いことも、苦しいことも、心が死にそうになっても、残酷な理不尽だけしかないのだと暗示をかけて。

 でも、アレンがそれを打ち破ってくれた。
 楽しいという感情も、嬉しいという感情も、愛しいという感情も……もう一度思い出させてくれた。

「私に世界を教えてくれて、ありがとう」

 温かな世界をくれて、ありがとう。

 少し泣きたくなったけど、感謝の気持ちを込めて微笑む。
 アレンは何か言いたそうだけど、なかなか言葉が出てこないようだ。
 どうしたのかと小首を傾げると、ぐっと口を引き結んで――

 私を、抱きしめた。

 戸惑ったけど、私を抱擁ほうようする腕が震えていることに気付いて、甘んじて受け入れる。

「――俺の方こそ……ありがとう」

 震える声で伝えてくれた言葉に、私は何も言わずに小さく頷いた。
 名残惜しそうに離れたアレンは、そっと私の頬を撫でて額に顔を寄せた。

 当たった柔らかな温もりに、心臓が跳ねるほど驚く。
 そっと離れたアレンを見上げると、彼は切ない表情で眦を下げ、微笑んでいた。

「お休み。よい夢を」
「……アレンも、よい夢を」

 戸惑ったけど、微笑を浮かべて言うことができた。
 アレンは優しい表情で笑ってから、背中を向けて去っていった。
 見送ってから建物に入り、自室に入って荷物を置くと、ベッドに倒れ込む。

 ……あれ……キス、だよね……?
 何で私にしたのだろう。親愛からくるものなの?

 よくわからない。でも、この切ない胸の鼓動と温もりは……嫌いじゃない。


 むしろ……愛しいと、感じた。




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Aletheia