耳障りな悲鳴に顔をしかめる。
しばらくすると、部屋にさっきの侍女が入ってきた。
「イザベル様!? だ、誰か来て!! 早く!!」
侍女が扉の外で大声を出してイザベルに駆け寄り、着ている上着を羽織らせて私を睨む。
近くを通りかかっていたのか、すぐに女性警備員が部屋に入ってきた。
一瞬固まった女性警備員は、持っている槍を私に向けた。
何も聞かずに一方的に決めるなんて浅はかだけど、これは仕方ないかもしれない。
「まっ、待って……!」
震える声で、イザベルが声を上げる。
ぼんやりしていた目を向けると、イザベルは侍女にしがみついて泣きそうな顔で訴えた。
「同じ村で育った、妹のような子なの……!」
「イザベル様、ですが!」
必死に声を上げるイザベルに、侍女は庇わなくていいと声を上げる。
周りには痛々しくて同情を誘う姿だ。
けれど、私には愚かで
どうしてこんなに愚かで醜いことができるのか。理解できないし、したくもない。
「お願い……見逃して。城から出すだけでいいから……」
……こんなに演技が得意な人間、初めて見た。いっそ女優を目指せばいいのに。
あーでも、この世界に女優とか存在しないんだった。じゃあ、劇団員とか?
「……わかりました」
渋々と言った様子で私を捕らえる二人の女性警備員。
普通なら、ここで違和感を持つはずなんだけどなぁ。
「私は右利きだよ」
わざとらしく大きな声で言って、イザベルを見下ろす。
「右利きだから、普通なら左の頬が腫れるよ」
ギクッと肩を震わせて固まるイザベルだけど、誰も彼女の様子に気付かない。
「それに、服の破れ方が可笑しい。宰相様と騎士に見せれば判るよ」
「訳のわからないことを口にするな! さっさと歩きなさい!」
私の腕を掴む女性警備員の握力は強い。顔を歪めてしまうほど痛いけど、私は抵抗せずに退室した。
離宮から出ると、途中でソフィアの姿が見えた。
ソフィアは私に気付き、血相を欠いて近づいてきた。
「貴女達! 何やっているの!」
剣幕な顔で走ってきたソフィアだけど、女性警備員は顔をしかめて言い放った。
「この者はイザベル様を傷つけたのよ。イザベル様の温情で牢には入れない」
「なっ……! シーナはそんなことする子じゃないわ!」
必死に言い寄ろうとするソフィアを鬱陶しそうに見える女性警備員。
これじゃあ
「ソフィア」
声をかけると、ソフィアは憤った顔で私を見る。
それがとても悲しくて、眦を下げた。
「あの子の破れた服、宰相様に出したら判るよ。……
泣きたくなったけど、女性警備員は私の腕を強く握りしめて黙らせた。
「黙れ! 抵抗するならただでは済まさない!」
耳が痛くなるほど怒鳴ってきた。
煩いと胸中で呟きつつ、私は無表情を徹して歩いた。
「シーナ!!」
後ろの方でソフィアの声が聞こえたけれど、それに応えることはできなかった。
引き摺られるように城門の外へ連れ出され、乱暴に突き飛ばされる。
雪が積もっているおかげで膝が擦り剥くことはなかったけど、かなり痛い。
周りの門番が戸惑って女性警備員に言い寄ろうとした。
私はそれを最後まで見届けずに、城から去るように街へ歩き出した。