悲愴




 城から追い出されて街まで向かったのはいいけれど、行く場所がなくて途方とほうれる。
 しんしんと降り積もる雪が無情なほど冷たくて、コートのフードを被る。

 街中を歩いていると子供の笑い声が聞こえる。笑っている子供を連れている大人も笑顔で、とても幸せそうだ。

 人の笑顔を見ると幸せになれる。そう感じていたのに、今は何故なぜだか胸が痛いほど苦しくなる。
 きっとこれはうらやましいという感情なのだろう。
 んでも仕方がないのに、幸せな家族を見ると羨まずにはいられない。

 両親と祖母が生きていたら、きっと幸せな家庭でいられた。
 自分の周りに友達がいたら、きっと楽しい日々を過ごせた。

 けれど、それは幻想ゆめに過ぎない。
 結局、私はひとりだ。

 冷たい感情を抱えて広場に行き、雪でおおわれたベンチに座る。
 子供達は雪遊びをしている。犬を連れている人は、はしゃいで走り回っている犬に振り回されつつ楽しんでいる。
 冬で雪が積もっているため、露天商はしていない。
 噴水も水が凍っている所為せいで機能していない。
 少し寂しいけど、これも冬ならではの味だ。

 白い息を吐き出して空を見上げると、昼間なのに灰色の雪雲で覆われている。
 アレンと外出した時は、ここまで濃い灰色じゃなかった。どちらかと言うと、ほんのりとした薄い灰色と表現することができた。

「……アレン」

 彼のことを思い出して、胸の奥がギュッと締め付けられて痛くなる。

 城から追い出された所為で、アレンと会えなくなった。
 あの時、お礼と一緒に告白すればよかったかもしれない。
 彼にその気がなくても、関係が崩れるかもしれなくても、こんな中途半端に別れるなら未練みれんを無くしたかった。
 今となっては遅いこと。過ぎ去ってしまったことを悔やんでも仕方ない。

 いつもなら、そう達観して諦められたのに……。

「会いたいよ……」

 熱くなった目頭を耐えるように閉じれば、熱い涙がほおを伝って流れ落ちる。
 冷たい外気にさらされ、涙が氷のように冷たくなる。
 手が、足が、頬が、心が、凍りそうなほどかじかむ。
 苦しくなるほど切ない感情が溢れ出す。表に出したくないのに、止まらない。

 声を上げたくても上げられない喉の痛みと息苦しさがおそいかかる。
 少しき込んでしまって、冷気のせいで余計に喉が痛くなった。

 このままでは風邪をひいてしまう。そうなる前に、どこかに行かないと……。

「……そうだ」
 一度だけ、アレンと行った教会。ザカリーさんが経営する孤児院もあるから、もしお邪魔じゃなかったら一晩だけでも泊めてもらおう。
 道はうろ覚えだけど、周囲にいる混沌の精霊にけば何とかなる。

 いつもなら水場には水の精霊、火があるところや乾いたところには火の精霊、風が流れているところには風の精霊、土があるところには地の精霊がいる。けれど、こういった雪や雷の時は、所によって混沌の精霊が活動している。
 彼等と交信するためにも人気のない所へ行こう。そう決めて、ベンチから腰を上げた。




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Aletheia