人気のない場所を探していると、いつの間にか街の雰囲気が違う所まで来てしまっていた。
薄暗くて活気がない。さらに言うと狭い路地には浮浪者らしき人が寝転がっていた。
ここが
「よぉ、そこの魔術師」
しかし、後ろから野太い声がかかった。
振り向くと、ボロボロだけど少しは
「こんな所に何の用だ?」
「まさか、俺達と遊んでほしかったりして?」
それに対して
「おい、余裕ぶっこいてると……ッ!?」
あと少しで触れるところで、私は地魔法で浮いた。
空を飛んだ私に男達は
そうだ。飛べばよかったんだ。
私は高い建物の上に飛び移り、周囲を見渡す。
ぐるりと見渡すと、少し遠くの方に白くて大きな建物が見えた。
おそらく教会だ。確認できた私は建物から建物へと飛び移り、貧民街から脱出した。
雪が深くて足場が悪くなるにつれ、足取りが重くなる。
それでも歩いていると、混沌の精霊が飛んできた。コスモと違い、愛らしい女の子。
『あれ? この人間さん……マカリオス様の加護がある?』
匂いを
「……え? それ、本当?」
思わず呟くように言ってしまうと、女の子の精霊はびっくりした。
『精霊眼を持ってるの? じゃあ、貴女が精霊王様と契約した人間さん?』
「えっと……混沌の精霊王のことだよね? 確かに契約しているけど……」
頷くと、女の子の精霊以外の精霊達が
え、ちょっ、怖っ!?
『姫様だー!』
『うわーっ、初めて見た!』
なんだか凄くはしゃいでいるように見える。ていうか……え?
「姫様って……何で?」
『知らないのか? 俺達の精霊王様と契約しているマカリオス様の愛娘で有名なんだ』
マカリオス様とは、混沌の精霊王の親であり、この世界の唯一神。
なにそれ、初めて聞いたんだけど。コスモ、何で教えてくれなかったの……。
なんて言うか……とんでもない
これは、どうすれば……。
『どこに行きたいの? 案内してあげる!』
「……えっと、教会に。お願いしてもいい?」
『うん!』
元気よく頷いて、案内してくれる精霊達。
私の周りに大勢いる精霊達を
精霊達はおしゃべりだけど、精霊界の
私のことを『姫』と呼ぶのは恥ずかしかったけど、好きなように呼ばせた。じゃないと泣きそうな顔をするから。
彼等といると、沈みそうになる気分を持ち直せる。
けれど、たまに苦しくなる。こんなにフレンドリーな精霊達を視ていると、ジャンヌやドナルドを思い出してしまうから。
『姫様、大丈夫?』
「……うん。ありがとう」
少し泣きたくなったけれど、
『あ、着いた!』
女の子の精霊が声をかけてくれて我に返ると、目の前に教会が
無事に到着できてほっと安堵して、精霊達に振り向く。
「ありがとう。これ、お礼になるかな?」
右手に拳大ほどの魔力の球を作ると、琥珀色の
三つほど作って渡せば、精霊達は瞳を輝かせて受け取った。
『わーい!』
『ありがとー!』
魔力球に飛びついて嬉しそうに食べる精霊達。
可愛らしい様子に頬を
『またね、姫様!』
去っていく精霊達に軽く手を振り返し、私は教会へ踵を返す。
独りになった途端、表情が消える。
誰かがいると自然と表情が変わるのに、苦しい時とか、必ずと言っていいほど無表情になる。
それはきっと、過去の『闇』の所為だ。
じくじくと痛み出した胸の奥を無視して、教会の入口の段差に座り込む。
天を仰いで白い息を吐き出し、ぼんやりとする。
泣きたいほど苦しいのに、どうしても声に出して泣けない。
なら、代わりに歌おう。
「――」
ぽつり、ぽつりと
その歌声は、まるで
哀しげで、苦しげで、とても痛ましい。
なのに、美しいと感じてしまう。
強い風でフードが脱げる。髪が風になぶられ、遊ぶように流れる。それさえも気にせず、心行くまで歌い続けた。
最後のハミングを消え入るように奏で終えると、熱い涙が一筋こぼれた。