14-04




『シーナ』

 俯きそうになる私に、コスモが声をかけた。

『良かったのかい? 君の最大の秘密を彼に話して』
「……うん。アレンには隠したくないから」

 なんだかだましているような気がして嫌だった。
 苦笑気味に言えば、コスモは呆れ顔で笑った。

『君らしいね。けど、大丈夫。彼は受け入れてくれるよ』
「そんなこと……」

 そんなの、わからないじゃない。
 人間は自分とは違う『異質』を除外しようとする。
 人間であるアレンは、きっと『普通』じゃない私を拒むはずだ。

 そう思うと泣きたくなってきた。
 アレンが好きなのに、嫌われるようなことを進んでしたから……。

「……シーナ」

 ビクッと肩が震える。
 恐る恐るアレンを見れば、彼は泣きそうなほど優しい表情を浮かべて、私の頬を撫でた。

「ありがとう」
「……え?」

 どうしてお礼を言われるのだろうか。
 不思議そうな顔をしてしまう私にアレンは小さく笑い、後ろ足を引いて数歩下がる。
 徐々にアレンの輪郭が淡くぼやけ――瞬間、目の前に信じられない生物が姿を現した。

 陽光ようこうで輝く銀色のうろこで覆われた巨体。人が一人入りそうな、わにのような大きな口から見える鋭い牙。解放的に伸ばされた蝙蝠こうもりのようなまくを張った翼。
 全てが神々しい白銀色で染め上げられている。

 この色で、ある人物が思い浮かんだ。

「……竜帝、陛下?」

 竜神と同じ力を持つ竜帝。その二代目竜帝である陛下を思い出してしまった。
 呆然と呟くと、目の前にいる竜は美しい金色のまなこを細めた。

『そうだ。私の名はアンスヴァルト。人間である時は「アレン」と名乗っている』

 アレンより少し低い声に聞こえる念話には寂しさが滲み出ていた。

 ……そうか。アレンも不安だったんだ。
 自分の正体を知ったら離れていかないか。嫌われないか。

 私と、同じだったんだ。


「そっか……」

 今のアレンには悪いけど、不謹慎にも嬉しいと感じた。

『怖くないのか?』
「全然」

 無意識に柔和な微笑になっていたようで、アレンは不思議そうに訊ねる。

『私は竜だ。人の子など、僅かな力だけで容易たやすく殺せる』
「……アレンは、怖がってほしいの?」

 アレンの言葉に寂しくなって言えば、アレンは頭を小さく横に揺らした。

「自分の力の怖さを理解している人を怖がるなんて無理だから」

 理解しているからこそ抑えているのに怖がられたら、私だって傷つく。

「いくら竜でも、いくつも姿を持っていても、アレンはアレンだ。ほかの誰でもない、たった一つの存在だよ。怖がるわけがないし、嫌うわけがない」

 地魔法で重力を操り、少しずつ浮かんでアレンと目を合わせ、目元の頬を撫でる。
 冷たそうな鱗は、意外にも温かかった。

「これからもアレンって呼んでいいよね?」
『……ああ。勿論だ』

 泣きそうなほど嬉しそうな声で、私に顔を寄せて目を閉じた。
 私も腕を広げてアレンの頭に巻き付け、その温もりを感じて瞼を閉じた。

 この優しい時間がいつまでも続いて欲しいと願ってしまうくらい、心が安らいだ。




PREVTOPNEXT

4/4

Aletheia