14-03




「ありがとう、コスモ」
『……結局、全部話したね』
「二度目だからかな?」

 一度目の衝撃が強すぎた所為で、俯瞰的ふかんてきな感覚で捉えるようになってしまった。
 あれを見て涙を流せなくなった私は、やっぱり親不孝者なのだろうか。
 そんな自分に悲しくなってくる。すると、アレンが私を強く抱きしめた。

「アレン?」
「……すまない」

 何に対しての謝罪だろうか。
 小さく首を傾げると、アレンは更に密着する。

「いつ……これを知ったんだ」
「……お祖母ちゃんが亡くなってすぐだから、三年前」

 三年前となると、当時の私はまだ十二歳。そんな頃に受け止めることも難しい現実を突き付けられた。普通なら発狂してもおかしくなかった。そうならなかったのは、やはり前世の記憶と転生の自覚のおかげだろう。

「シーナは村人も憎んでいるはずだ。なのに何故、あの村から移住させて救おうとしたんだ」
「え。どうしてそれを……」

 この話は竜帝陛下とヴィンスさんだけが知っているはずなのに……。
 アレンの肩が震えた気がしたけど、一応答えた。

「私を慕ってくれた子供達に、私と同じように親を喪って欲しくなかったから。それに、あの村には事実を知らない子供もたくさんいる。彼等まで私の勝手な憎しみに巻き込めないよ」
「勝手じゃない!!」

 突然、叫ぶように言って体を離したアレン。
 彼の綺麗な鳶色の瞳には、怒りと悲しみが込められていた。

「君の憎しみは当然のものだ。ぶつけても誰も咎めないほど」

 まるで私が壊れることを望んでいるような言葉。
 なんだか、普段のアレンじゃないみたいだ。

 違和感を持つけれど、アレンの言葉を否定した。

「……無理だよ。私はもう、後悔したくないから」

 親を喪う後悔もある。けれど、一番は人生そのものだ。
 これはコスモ以外に言ったことがない。

 でも、アレンならいいよね……?

「アレン、輪廻転生りんねてんせいって信じる?」

 何の脈絡もない質問を、俯き気味にく。

「……魂の死と再生のサイクルのことか?」
「そう。前世や来世。そして、世界の理。……私には、世界の輪廻から外れて、違う輪廻へ転生した、異世界の人間だった記憶がある」

 思い切ってアレンを見上げれば、彼は何を言っているのか解らないといった顔で固まっていた。
 ドン引きするのも仕方ない。受け入れられないのも解る。けど、アレンにだけは隠したくないと思った。

「概念は存在するけど、この世界と違って魔法も実在しない世界だった。代わりに科学という機械などの技術が発展していた。この世界と違って文明は豊かだけど、いろんな意味で汚かった。空のオゾン層は遥か昔に壊され、海も汚染して、生き物も激減して、逆に人間が増えていく世界。……私はその中で、後悔しながら生きてきた」

 後悔の内容は様々だ。その中で一番後悔したのは、人間関係について。

「自分でも嫌悪するくらい、後悔ばかりの人生だった。こんな私がどうしてこの世界に転生したのか解らないけど……」

 理解できなかった。私のような醜い人間がこの世界で生きていいのかと。
 でも、この世界での『私』はまだまっさらなんだって思うことができた。
 人生のリセットボタンは押していないはずだけど、この運命に感謝した。

「前世のように後悔したくない。……だからかな。誰かを傷つけることが怖くてできなかった」

 他人を傷つけて後悔したくないこともあったし、他人を傷つけて罪悪感を持つことが怖かった。
 罪悪感に苛まれる辛さを知っているからこそ、私は後悔しない生き方を選んできた。

「憎しみの連鎖は果てがない。誰かが耐えなければ収まらない。だから私は憎しみで誰かを傷つけることを拒んだ。する度胸もない臆病者だよ」

 臆病者だからこそ、私は憎しみで暴走することなくいられた。
 本当は大嫌いだった自分の一部だけれど、この世界では、その臆病に感謝した。

 自嘲的に小さく笑った私は、瞠目しているアレンから離れる。

 アレンなら受け入れてくれると思っていた。けれど、アレンも結局は普通の人間でしかないようだ。
 私を受け入れてくれるのは、コスモ達だけ――。





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Aletheia