「独学って……どれくらいでできるようになったんだ?」
「十二歳の頃から……だいたい、一年近く?」
考えてみれば一年も経ってない。これって普通じゃないのかな?
青年を見ると、彼は
「……なるほど。君には魔法使いの才能があるのか。それこそ帝都で宮廷魔導師を務めるくらいの実力が」
「え」
帝都の宮廷魔術師。それを聞いて頬が引き
帝都はこの国――竜帝が治めるバシレイアー帝国の中心都市のこと。
この大陸で最も権力を持つ竜が住み、この国で優秀なエリートが集まる。それが帝都。
私が竜帝のいる城で働く宮廷魔導師になる? まったく想像できない。
恐れ
「嫌なのか?」
「……私なんかが務まるわけないし……そもそも、帝都に行けるわけがない」
もし務まるとしても、行けない。
だって……。
「私は……魔女だから……」
大人達が私に使う蔑称は、本当にその通りだ。
黒持ちだし、目の色が違う。たとえ子供でも、大人達は私を気味悪がって嫌う。
村人達の反応を思い出すと心苦しくなって、自然と
「それは、君が黒持ちだから?」
「……それだけじゃない」
優しく問いかける青年は、この瞳を見てどう思うのだろう。
村人達のように気味悪がる?
子供達のように興味を持つ?
怖いけど、私は鼻まで伸びた前髪をかき上げて、隠している異色の
途端、青年は息を呑んだ。
……やっぱり、気味悪がるよね。
「この瞳で気持ち悪がられて、化け物って呼ばれている。都会でも、きっとそう……」
人に自分のことを話すのは初めてだ。
慣れないせいで苦しい感情が込み上げてくる。
私は……こんなにも弱かったの?
「……ごめん、気持ち悪いもの見せて」
「気持ち悪くない」
前髪を戻して謝ると、青年に肩を掴まれた。
驚いて顔を上げれば、青年は優しい手つきで私の前髪をかき分けて、目線を合わせる。
「ラピスラズリとアメジストの様に美しい。それを気持ち悪いと思うわけがない」
彼の言葉は真剣で、
「君は魔女でも化け物でもない。ただ魔法に
ただの、女の子……?
初対面の人に、心が揺さぶられた。
それは、私には遠い
「ほん、とうに……? 本当に、ただの女の子でいていいの?」
手に入らないものだと分かっているはずなのに、願わずにいられない
どこにでもある小さくも幸せな家庭にいるような、普通の女の子になりたかった。
ただの女の子になりたい。その思いを
魔女と定められ、利用される。年下の子供達は違うけど、同年代から大人はそうだ。
当たり前のように利用して、当たり前のように
転生した私は、この村の中だけしか世界を知らない。だから、この世界では当たり前のことなのだと暗示をかけて割り切るしかなかった。
でも、違うのだ。この青年のように、優しい人だっている。
「都合のいい道具でいなくてもいいの?」
震える声で問いかけると、青年は息を詰める。
「自由でいて……いいの?」
自由への
どうしよう、泣きそう……。
「もちろん。世界は広い。この村だけではなく、いろんなものを見て、触れて、感じていい。君にはその権利がある」
「……ありがとう」
権利なんて
膜が張った目から熱い涙が一筋流れる。でも、暗い顔はいけないと思って、感謝の気持ちを込めて微笑んだ。
ぎこちなくて不器用な笑みだったと思う。
だけど青年は面倒そうな顔をすることなく、私の頬に流れた涙を
「俺はアレン。君の名前は?」
「……シーナ」
「シーナ、明日も来ていいか?」
「いいけど……どうして?」
私のところに来るなんて、仕事は大丈夫だろうか。
「大事な話があるんだ。この村の視察は明日の昼に終わる予定だが……」
「別にいいよ。遅くなってもいいから。ただ、無理だけはしないでね」
仕事でも無理をしすぎると体に良くない。
気遣って言えば、青年――アレンは嬉しそうに笑った。
「ああ。また明日」
「うん。また」
手を振って、アレンを見送る。
彼の背中が見えなくなってから、私は家の中に入った。
これが、私の運命が始まる予兆だった。