男の家から出て我が家に帰る頃には、太陽が西に
だいたい四時ぐらいかな?と思っていると、精霊の声が頭に響いた。
『シーナ! こっち来て! 早く!』
「え、どうしたの?」
一体どうしたのか。首を
デオマイ村は
この村を管理している領主は、鉱山の採掘のためにデオマイ村を作ったのだ。
鉱山の近くには魔物がいるというのに。
今回の魔物は村人でも手に負えるものじゃないようだ。
魔法で飛んで向かうと鉱山の
「……ヘルハウンド?」
地獄の犬という名を持つ魔物だ。何でこんな所に?
まぁ、いい。今は助けないと。
近くに着地して、右手に魔力を込める。
そして――
『【ショックウェーブ】!』
基礎的な火・水・風・地属性ではない、風属性の上位互換・雷属性の魔法を使った。
右手を横薙ぎに振るえば、紫電の波がヘルハウンドに襲い掛かる。当たったヘルハウンドは感電死して倒れるが、逃れた魔物もいる。
仕上げだ。
『【フリージング】!』
残りの三匹は水属性の上位互換・氷属性の魔法で凍らせた。
パチンと指を鳴らせば、ヘルハウンドは魔石を残して氷とともに砕け散る。
よし、片付いた。
「君は……」
その時、ヘルハウンドに襲われていた集団の一人が呆然と呟く。
よく見ると、三人は騎士の格好をした男で、一人は上質なコートを着た青年。コートの青年はおそらく魔法使いだろう。
でも、何でこんな辺境に騎士と魔法使いが?
「貴方達、誰?」
まさか、鉱山を狙う貴族?
そんな予想をしていると、騎士達の奥にいる男達が怒鳴った。
「おい! 失礼な態度をとるな!」
……あぁ、鉱山で働く村人か。
眉間に
「何でこんなところにいるんだ!」
「精霊に頼まれて助けに来たんだけど」
「大きなお世話だ! こっちにゃ騎士様がいるんだぞ! 魔女は魔女らしく森に閉じ
今にも魔物に殺されそうだった人に言われたくないなぁ。
まぁ、この文句も彼等の
ここまで嫌われる理由が黒持ちだからというだけではないけど、これがデオマイ村だと受け入れるしかない。
「……わかった。じゃあ、今度死にそうになっても助けないから」
「はあ!? 何でそうなる!? 調子に乗るのもいい加減に――」
怒鳴り散らす男が殴りかかろうとしてきた。
流石に殴られるのは嫌だから、魔力で形成する壁を作ろうとした。
「女性を殴るなんて感心しないな」
その前に、誰かが男の腕を掴んで止めた。
男の後ろから止めたのは、男より背の高い魔法使いの青年。
村の男達にはない美しさだと、無意識に見入ってしまう。
止められた男は気まずそうに握り拳を下し、殴られなくて安堵する私を
「明日は村に来るな」
「……理由は?」
「言う必要ないだろ」
まぁ、そうでしょうね。
森には魔物が多くいるけど、私の敵じゃない。
人気のない場所で、いざ飛ぼうとした。
しかし、その直前――
「待ってくれ!」
「ッ!?」
突然聞こえた声に驚いて、勢いよく振り返る。
追ってきたのか、さっきの魔法使いがいた。
「助けてくれてありがとう。あの数は俺達でも厳しかったんだ」
「……別に。風の精霊に頼まれなかったら、ここまで来なかったから」
礼なら風の精霊に言って。そう言えば、青年は目を丸くした。
「精霊と交信できるのか?」
「契約もしているよ。じゃあ、さようなら」
青年がいるけど魔法を行使しようとしたが、肩を掴まれて止められる。
「ここから村まで行くと暗くなる。送るよ」
青年の申し出に戸惑う。今までそんなことを言ってくれる人なんていなかったから。
「え、いや……飛ぶから大丈夫だけど……」
「……飛べるのか?」
固まった青年は我に返ると
実際に体験してもらった方が早いだろうと思って、重力を操作した。
まるでエレベーターのように木より上まで行くと、青年はぽかんとした。
「地属性の魔法……?」
「よく判ったね。重力を軽減させて操作することによって浮くの。あとは風魔法で飛ぶだけ。だからすぐに帰れる」
あ。そう言えばこの世界に重力っていう物理的概念、存在していたっけ? まぁ、いっか。
「それでもついてくる?」
「ああ」
ついて来られたら大変なことになりそうだけど……もう、どうにでもなれ。
「……わかった。じゃあ、行くよ」
二人以上と一緒に飛ぶのは初めてだから、念のために手を繋いだ方がいいと思って右手を差し出すと、青年は戸惑いながら掴んだ。確認して、私は風魔法で飛ぶ。
傾いていた太陽がさらに傾き、空を茜色に染める。この風景は綺麗だから好きだ。
青年を見ると、彼はかなり驚いた様子で私を凝視していた。
「なに?」
「あ、いや……その、すごいな」
「そう?」
「こんな魔法は初めて体験するから……」
まぁ、そうだろうね。
納得して、あっさりと答える。
「作ったんだから。当然だよ」
「作ったのか!?」
驚愕から大声を出す青年に肩が震える。
え、何もそこまで驚かなくても……。
「精霊以外に教えてくれる人なんていなかったから、独学でやるしかなくて……」
幸いにもお祖母ちゃんは魔法使いで、基本的な魔法を使うための手順を記した本と、かなり古い魔法書が一冊だけある。お祖母ちゃんから文字の読み書きを習ったおかげで、魔法書も難なく読めた。
基本的な魔法ができるようになってからは、自分なりの魔法を作る楽しさを覚えた。そこからは止める人がいなかったから自重できない魔法の訓練を繰り返した。
そして、前世で覚えている知識を思い出しながら作ったのだ。