15-03




「なかなか会えなくて寂しかったわ! やっと会えて嬉しい」
「ロ……ローザ、苦しい……」

 豊満な胸が首に当たって苦しい。新手あらて拷問ごうもんですか?

 苦しげな声で訴えると、ローザは「あ、ごめんなさい」と離れてくれた。
 さっきの苦しさと羞恥心で頬が熱くなって目がうるむ。そんな私にローザは相好そうごうを崩す。

「ああもう可愛いわね!」
「ローザの方が可愛いよ」
「しかもいい子! 本当にお持ち帰りしたいわ」

 とんでもないことをサラッと言ったローザに苦笑してしまう。

「ローザリント。あまりシーナを困らせるな」

 続いて登場したのは、竜帝姿のアレン。
 彼はハドフォンスとゴトフリートに、意外そうな目を向けていた。

「珍しく言い争ってないな」
「そこのシーナって子が仲裁してくれたんだ」

 ラインホルトが言うと、アレンは驚き顔で私を見る。
 ローザは目を輝かせて私の手を握る。

「やっぱり凄い! 今回の晩餐会にさそって正解ね!」

 ローザのキラキラした眼差しに耐え切れなくなってうつむく。

「えっ。ローザさん、彼女を誘ったんですか?」
「そうよ。ゴトは反対?」
「いえ、ただ……」

 驚いたゴトフリートはアレンを見る。
 彼の視線の意味を理解したアレンは頷く。

「私は反対しない」

 あっさり許可したことを言えば、ゴトフリートとラインホルトは目を丸くした。
 やっぱり一介の宮廷魔術師見習いが同席するなんて反対だよね……。

「ちょっと来い」

 ハドフォンスが二人の肩を掴んで、強引に壁のすみへ引っ張っていく。
 小声で何を話しているのかわからないけれど、話が終わった途端に勢いよく私に向いて凝視してきた。

 怖いからやめて! 気まずくなるからやめて!

「そういうことだ。俺は兄貴の肩を持つぜ」
「……兄貴?」

 首を傾げてアレンを見ると、アレンは気まずそうに視線を逸らす。

「アンス様はハドに『兄貴』ってしたわれているのよ」
「そうなの?」

 竜王に慕われるなんて、さすが竜帝。
 だけど……。

「兄貴って……ぷふっ、似合わないっ」

 兄貴はない。竜帝相手にそれは可笑しいよ。なんだか不良の頂点に立つ人みたいなニュアンスだと認識してしまうのは、私だけかな?
 クスクスと笑ってしまう私にムスッとしたアレンは、私の頭を乱暴にき混ぜた。

「うにゃー! ちょっ、やめてー!」

 悲鳴を上げるとアレンは気が済んだのか手を止めて、私の髪を整えるように撫でた。

「うぅー、いきなり酷いよ……」
「笑いすぎるシーナが悪い」
「だって『お兄様』じゃなくて『兄貴』だったから……。ボサボサになってない?」
「ああ。ほら、直った」

 頭に触れると、ボサボサになったはずの髪がちゃんと整っていた。
 ほっとしてアレンに「ありがとう」と言うと、アレンは可笑しそうに笑った。

「乱した相手に礼を言うか?」
「……でも、最後には整えてくれたから。あと、笑っちゃってごめんね?」
「もう気にしてない」

 アレンの穏やかな微笑みに私も安心して笑顔が浮かぶ。
 ふと、ハドフォンス達の視線を感じた。

「シーナは兄貴が竜帝と知っても変わらないんだな」
「竜帝でも、アレンはアレンですから。……あ。アンスって呼べばいいんだっけ?」

 ここには竜王達が集まっているから、竜帝としての名前で呼べばいいのか気になった。
 アレンを見上げると、彼はまなじりを下げた。

「今は公式の場じゃないから大丈夫だ。けど、晩餐会の時は名前で呼んで」
「わかった」

 安心したけど、晩餐会の時は気を付けようと心に決める。

「それでも、この姿の時は名前で呼べるようになってくれ」
「……うん」
 ちょっと気恥ずかしいけど、アレンがそう望むなら頑張ろう。

「んじゃ、俺のことはハドって呼んでいいぜ。敬語もいらねー」
「え、いいんですか?」
「おう。俺もシーナと仲良くなりたいからな」

 ローザに続き火の竜王と仲良くなるなんて……なんだか凄い展開になってきた。
 でも、友達になれるのは嬉しいので頷けば、ゴトフリートとラインホルトも申し出た。

ずるいですよ、ハドさん。僕のこともゴトって呼んで」
「じゃあ、僕もラインで」
「えっと……。ハドと、ゴトと、ライン……うん、覚えた。改めてよろしく」

 私なんかが竜王達と友達になれるなんて信じられないけど、この出会いも楽しくて破顔はがんした。
 そんな私にローザも笑顔になる。

「やっぱりシーナはいいわね。魔力の波長も心地良いし」
「言われてみれば確かに……」

 ラインが同感して私をしげしげと見る。
 そういえば混沌の精霊達からマカリオス神の愛娘って言われたっけ。あれ、本当なのかな?

「……シーナ、そろそろ部屋に送ろう」
「あ、うん。じゃあ、またね」
「ええ、今度は晩餐会で」

 ローザの言葉に笑顔で返して、私はアレン……じゃなくて、アンスと一緒に自分の部屋へ向かった。
 四人の気配が無くなった頃、アンスは小さな溜息を吐く。

「大丈夫?」
「え。あ、あぁ……」

 ぎこちなく頷くアンスに違和感を持つ。
 じっとアンスを見れば、彼は苦笑して私の頭を撫でた。

「疲れてはいないから心配するな」
「……無理だけはしないでね」
善処ぜんしょする」

 そこは頷かないのか。まぁ、竜帝となると多少の無理や無茶は日常茶飯事にちじょうさはんじかもしれない。

 私の頭を撫でていたアンスは、そっと手を下して私の手を取る。
 左手を包み込む大きな掌に、ドキッと胸の奥が跳ねた。

「シーナの手は綺麗だな。柔らかいし、繊細だ」

 急に私の手を褒めた。
 嬉しいやら恥ずかしいやら、よく判らない感情が込み上げる。
 頬の熱を抑えようと、私も思っていることを言う。

「……アンスは大きくて男らしくて、凄く安心する」
「安心?」
「うん」

 男らしいと言っても、男にしては綺麗な手だと思う。それでも骨張った大きな手は安心感を与えてくれる。

「私、アンスの手……好きだよ」

 手フェチじゃないけど、安心するから好き。
 柔らかな微笑みを浮かべて言うと、アンスは目を逸らして口に左手を当てた。
 あれ? 私、変なこと言った?

「どうしたの?」
「……いや、何でもない」

 目元がほんのり赤いから、何でもないっていう顔じゃない。
 もしかして照れたのかな? だとしたら可愛いかも。

 そんなことを思っていると、私の部屋に到着した。
 あっという間に感じてしまう一時に寂しくなったけれど、我儘わがままは言えない。

「ありがとう。また明日」
「ああ」

 最後に私の頭を優しく撫でて、アンスは仕事へ戻っていった。

 アンスはよく私の頭を撫でるけど、私ってそんなに子供っぽいのかな?
 そうだとしたらショックだ。子供っぽい私ではアンスに釣り合わない。
 だけど、相手は竜帝。そんな彼に、一人の女性として見てくれる日が来るなんて望んじゃいけないのに……。

 それでも私の、アンスが好きだという気持ちは変わらなかった。




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Aletheia