「私、お金ないよ?」
「それくらい俺が払うから気にするな」
「気にする! お金の貸し借り駄目絶対!」
物々交換はいいけど、返せないお金は借りたら駄目だ。
何かのキャッチフレーズになりそうなことを言ってしまった私に、アレンは面白そうに笑みを浮かべた。
「大丈夫。魔法書のこともあるから、竜帝陛下から金を貰えるはずだ。そこから引かせてもらうから安心しろ」
「……それなら、いいけど……」
竜帝からお金を貰えるなんて恐れ多いけど……まぁ、アレンが言うならいいかな。
「町に行ったことはあるか?」
「ない」
「じゃあ、町に着いたらあれこれを教えるよ」
「例えば?」
「今回泊まる宿は、デオマイ村の村長の家より大きくて、村人の二、三倍は人が集まる」
デオマイ村の村長の家は、村の民家と比べるとかなり大きい。それより大きくて、村人の数より多い人が集まるなんて……想像できない。
目を丸くする私に、アレンはやっぱり面白そうに笑った。
「驚くのはまだ早い。竜帝陛下の住まう城の敷地は、デオマイ村より広いよ」
「そんなに?」
「大陸の中心にあるんだから、当然だ」
その当然が、よく判らないんだけど……。
ぽかんと呆けてしまう私にアレンは笑って、いろんなことを教えてくれた。
城では召使の服は決まっていて、一式は無料で支給される。召使の中でも執事や侍女など役割があって、他の人の仕事は頼まれない限りやってはいけない。身分によって入れる場所と入れない場所があり、身分の高い者には用がない限り話しかけてはいけない。
特に貴族はプライドが高いから、
「シーナの場合は宮廷魔導師見習いから始める。普通は学業を終わらせなければいけないが、シーナの場合は特殊だから、適切な上司の下でいろんなことを教わるんだ。一人前になるまで最低でも一年はかかるから、根気が必要だ」
「なるほど……あれ? 上司って、アレンがなってくれるんじゃないの?」
アレンは宮廷魔導師だよね?と確認をとると、彼は困った顔になる。
「俺は宮廷魔導師とはちょっと違うから、同じ職場じゃないんだ」
「……そっか」
てっきりアレンが先生役になってくれるのだと思っていた。
アレンじゃない誰かが上司になる。それを聞いて、一気に不安になった。
でも、頑張るしかない。怖くても、やってみないと始まらない。
軽く俯くと、腹部に回されたアレンの腕の力が強くなる。
「大丈夫。時々だけど、顔を見せに行くよ」
「本当?」
「ああ」
アレンの気遣いが身に染みて、ほっとすると同時に嬉しくなる。
でも、少し申し訳なさが出てきた。
「ごめん。迷惑かけて……」
「迷惑じゃないさ。俺がそうしたいからやっている。シーナはずっと一人で、頼れる人がいなかったんだろ?」
アレンの言葉に、小さく頷く。
「頼れる人ができるまで、俺を頼ってくれ。むしろ甘えてくれたら嬉しい」
確かに頼れる人は今までいなかった。
どうしてそこまで言ってくれるのか。
どうしてこんな私を気にかけるのか。
今の私には理解できないけど……。
「ありがとう」
今はただ嬉しくて、感謝の気持ちを伝えた。