序章

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 物語の数ほど世界があると、ある人間は考察する。
 でなければ異世界転生という体験などするはずがない。

「さあ、迷子まいごたましいよ。貴女あなたはこの世界で生まれ変わりたいか、選んでちょうだい」

 膝下まであるフード付きのカーディガンは薄手で繊細せんさいに仕立てられているが、髪の色と同じく黒いため、色白の肌に浮かぶ薔薇色ばらいろくちびる以外の風貌ふうぼうが判らない。
 ただ、白いエンパイアドレスをまとう立派な体型で『女性』であるということが判る。
 彼女の言葉通り、地球と呼ばれる惑星わくせいがある世界で日本人という人種で生きていた人間は、違う世界の輪廻りんねに迷い込んだようだ。
 肉体を捨てて魂だけの状態であるため、人の形ではなく球体として、いびつに揺らいでいる。
 魂は驚きのあまり茫然ぼうぜんとしていたが、我に返ると首肯しゅこうするように上下に揺れた。

「であれば、貴女は何を対価たいかに差し出すのかしら?」

 ――対価。それを問われた魂は、最初に『存在した事象じしょう』が浮かんだ。

 かつて人間として生きていた頃、己でも嫌悪する生き様だったと評価している。
 だが、それでは対価としては不十分だと、魂は理解していた。

『関わってきた人達の中にある、良かったと思われる「私」との記憶。そして……私の「幸福」だった記憶。知識と一部の悪い記憶以外の記憶。それが、私が差し出せる対価』

 魂が提示ていじした対価の内容に、彼女は面白そうに笑みをいた。

「いいわ。私――女神グレイスエーファは、その対価を受け取り、貴女を私達の世界へむかえ入れましょう」

 ――貴女の人生に、幸多からんこと。

 異世界の女神と名乗った女性は、柔らかな微笑とともに魂を包み込んで抱きしめた。


 物語の数ほど世界があると、ある少女は考察する。
 実際、少女は違う世界で生きていた『前世の記憶』を持っているからだ。
 それ故に少女は、今世は『剣と魔法』を題材とする『異世界』なのだと認識できた。

 望んでいた新しい命。
 しかし、現実は優しくない。
 どの世界にも差別がある。少女は、その対象として転生してしまったのだ。


 これは、転生した少女が幸せを掴む物語である。


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