春風が運ぶ物語
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大陸の東側に広がる世界
作物だけではなく、
世界最高峰として名を
それは、通信魔道具。
形は、肌に触れることができる多種多様の装飾品。その魔道具に登録した相手の魔力を登録させることで、魔道具を通して相手と会話することができる。
念話では考えていることが筒抜けになってしまうので、声で通話する仕組みになっている。
登録できる数に上限はなく、相手の名前が載ったリストが表示されるため探すことに困らない。
この歴史的発明を成し遂げたのは、ある一人の少女。
しかし、誰もその少女を知らなかった。
カエレスティス王国の王都クウァエダムの外れにある森の中に建物がある。
一般的な家と呼ぶには大きく、屋敷と呼ぶには小さな、ダークブラウンの屋根に焦げ茶色の壁が特徴的な二階建ての一軒家。
そんな家の二階の一室で、黒髪の少女が紙に向かってペンを走らせていた。
筋の通った小さめの鼻と形の良い細い眉などの綺麗な部位が似合う、
玉の肌を引き立てる
体型は
中でも美しいのは、長い
ルビーやガーネットとは違う鮮烈な原色の赤は、穏やかでいて凛とした印象を持たせる目付きに良く似合う。
まさに絶世と表現しても過言ではない美貌を持つ少女は手にしていたペンを置き、紙面上にある複雑な魔法陣を眺める。
二重の魔法円の中に古代文字、中心に
少女は深く息を吐き出し、魔法円の外の四隅に同じ記号を書いただけの紙と、真新しい紙を取り出して上に重ねる。下に魔法円の紙、中に魔法陣を描いた紙、上に新しい紙。
しっかり合わせて右手を起き、軽く魔力を込める。すると、真新しい紙に先程完成したばかりの魔法陣が浮き出た。
完璧な模写と言っていい簡易的な手法は、少女が編み出した
下に敷いていた紙を
そして、紙の縁に触れて魔力を送る。
原本の魔法陣が魔力によって青白く光った――と思えば、左端に置いている副本の魔法陣も青白い光を放ち、原本の魔法陣に置いていたはずの小動物の彫刻が現れた。
次は副本の魔法陣に魔力を送れば、原本に彫刻が移動する。
「……ふぅ。できたー」
求めていた成果が出て、ようやく真剣な表情が柔らかな笑顔に変わった。
疲れ目を閉じて、椅子の
だらんと背凭れに後頭部を預け、組んだ手を腹部に置いてリラックスに入る。
開放した窓から入り込むそよ風が、木々の香りを運ぶ。自然界の青い匂いが、少女の心を穏やかに落ち着かせてくれる。
しばらく
「まさか一発で上手くいくなんて、ね……」
口元に笑みを
この魔法陣の製作期間は一週間。父親から魔法陣についての知識を完璧に教え込まれ、魔法陣の仕組みを理解し、専門知識が載っている魔法書を参考に新たな魔法陣を完成させた。
満足のいく結果を出せた少女は、
「よしっ、散歩に行こうかな」
時刻は三時を過ぎた辺り。ずっと部屋に
少女は抽斗に入れていた
鏡の前で赤い椿の飾りが付いた金のイヤーカフが右耳にあることと
ユリア・ティエール。
今年で十四歳になる魔法使い。
備考――地球と呼ばれる惑星がある異世界から転生した、元日本人女性。
「ミア、散歩に行くよー」
外に出たユリアは、家の畑に実っているオレンジ色の木の実を食べている小動物に声をかける。
ふさふさの胸毛がある栗鼠のような体躯だが、体色は色鮮やかなエメラルドグリーン。腹部と手足の先は黄緑色で、
そして、額には
この小動物は、伝説上の生物として有名な幻獣・カーバンクル。
一般的に警戒心が強く人見知りが激しいと言われているのは、額にある真紅の宝石を手に入れようとする者から身を護るため。
カーバンクルの額の宝石を手に入れた者は富と名声、幸福を得るという言い伝えがある。
実際にカーバンクルの宝石を手に入れた者が、歴史上の人物になったという
しかし魔力の多い森林地帯に
小さいが知性が高く、額の宝石と体内には
目撃者によると、
ミアという名前のカーバンクルは
ユリアに呼ばれたミアは、両手でしっかり持っている魔力が詰まった丸い木の実と急いで食べきり、手早く
驚異的な
ぐりぐりと強く頬擦りしてくるミアに、うふふ、と上品に笑うユリア。
「ごめんね、寂しがらせちゃって。じゃあ、泉まで行こう」
「きゅい」
嬉しそうに鳴いたミアの頭を指先で撫でて、ユイは森の奥へ向かった。
ユリアの家から離れた所には村があり、その反対方面の森の奥に幻獣の憩いとなる泉がある。
普通の森には、魔力を持つ害獣とも異形とも言われる魔物が
その原因を作り出したのは、他でもないユリアだった。
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