学園長と副学長の関係

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「イリーナ先生。学園長と結婚した人って、イリーナ先生のことですか?」

 長い通路を超えて階段を下りている途中でユリアが訊ねると、イリーナは頬を赤らめた。

「……ど、どうしてそう思うの?」
「なんていうか……先生が学園長に見せる笑顔とか、学園長が先生に向ける眼差しとか……なんだか甘い雰囲気があって。もしかしたら、なんて思って……」

 階段を下りながら答えれば、イリーナは更に赤面する。
 チラッと見上げたユリアは、可愛らしい反応に微笑ましくなってはにかんだ。

「仲睦まじいって良いですね」
「……ありがとう。ユリアには女の勘があるのね」
「たまたまです」

 ユリアは謙虚けんきょに言うが、本当にたまたまだと思っている。
 鋭いのか鈍いのかよく判らない彼女の言葉にイリーナは苦笑する。

「貴女くらいの年頃の子は、愛情より友情を優先するわ。しかも親の仲睦まじいところを見ると、嫌な顔をするのよ。ユリアはそうじゃないの?」
「まぁ……私は両親の仲が良いところを見るのは嬉しいですから。ちゃんと愛し合っているんだって判って安心しますし。何より両親が理想の夫婦像なんです。幼い頃は、両親みたいな人と出会えたらって思っていました」

 望んでいた。願っていた。けれど、過去のトラウマで他人を信じることが怖くなった。
 今でも両親のような理想の家庭を築き上げたいと思っているが、心に不信感が残っている所為で諦めかけている。

 切なさをはらんだ笑顔で過去になった夢を語るユリア。彼女の横顔を見て、イリーナは心に痛みを感じた。

「……ユリアなら、きっとできるわ」
「そうでしょうか……。おっかないところを知られたら逃げられるかも」
「あら。ミケーレ様はマヤのおっかないところもひっくるめて惚れているのよ? ユリアもそんな人に出会えるわよ。私が保証してあげる」

 自信のあるイリーナの言葉に目を丸くしたユリアは、あははっ、と明るい笑顔で笑った。
 軽やかな音色は耳に心地良く、温かくなるほど心が晴れる。そんな笑い声だった。

「ありがとうございます。頑張りますね」
「その意気」

 にこりと笑って、イリーナは安心した。
 やはりユリアは、かげりのある微笑みより明るい笑顔の方が似合う――そう感じて……。



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