始まりの朝
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ゆっくり眠って回復したユリアは、マリリンから中等部二年生で習う総合学を教えてもらい、休憩の合間に共同寮の寮生の名前を聞いた。
うなじを隠すほどの黒髪、やや大きな黄金色の瞳と
程良く長い真ん中分けの黒髪、切れ長な青紫色の瞳で
光属性が表に強く現れるプラチナブロンドの髪を首辺りで整えた、涼やかな目付きだが高貴な印象を与えるワインレッドの瞳を持つ秀麗な少年は、ロベルト・フォン・スウィーニー。カエレスティス王国の宮廷魔法使いを代々輩出し、祖父は筆頭魔法使いとして頂点に立つスウィーニー侯爵家の継嗣。
ノエはユリアとマリリンと同い年。オズワルドとロベルトは二歳上。
共同寮に住むユリアを含めた七人の寮生は、一人が中等部二年生、四人が中等部三年生、二人が高等部二年生ということになる。
「初等部の子はいないんだね」
「不思議なことにね。でも、『黒持ち』と
ノエはそう言うが、ユリアの両親は『黒持ち』と禍人。彼女にとって、もう少しいるのでは?と感じてしまう人数だった。
エドモン・デュラン。うねるように波打つ白い髪に雑り気のない金色の瞳を持つ絶世の美少年。本来なら男子寮にいるはずの彼は、共同寮の寮長を務めている。
学園長であるクリス・ローゼンクランツの話で何か訳があるのだと察したが、ユリアは追求しなかったので理由は知らない。
とはいえユリアは興味を持たなかった。そもそも他人のあれこれを
共同寮のことをマリリンとノエから聞かされながら勉強会を進めて、夕飯の時間になるとロベルトに謝罪された。
出会い頭で、ユリアの母親・マヤを
「謝罪は受け取るけど……。今後は、
宮廷魔法使いに誇りを抱くことに問題はないが、それを傲慢に持ち上げていたロベルトの心理を見抜いて釘を刺せば、「返す言葉もないな」と彼は苦笑した。
年下のユリアに欠点を見抜かれて諭されたのだから、年上の立つ瀬がない。
けれど、和解することができた。ロベルトにとって、それが一番の進展だ。
――そんな一日が過ぎて、初の登校となる日の朝を迎えた。
早朝の六時。軽い体操を済ませたユリアは学生服に身を包んだ。
万人に似合うよう設計された服に着替えると、髪型をハーフアップに整え、机に置いているノートを開く。
ノートにはマリリンから教えて貰った学力考査の範囲が書き込まれている。
実のところ、中等部で習う学問はミケーレとマヤから全て習っている。それを昨日の予習で知ったのだが
途中で置時計を確認すれば、六時半になる前だと気付くことができた。
「んきゅ?」
「うん。そろそろ行くけど、ミアは?」
椅子から立ち上がったユリアの問いかけに、ミアはベッドのヘッドを踏み台に
「じゃあ、行こう」
「きゅい!」
元気よく前足を上げて返事したミアに笑いかけ、ユリアは外に出た。
春季の朝特有の肌寒さが心地良い。そう感じるユリアは腕を伸ばして深呼吸した。
「早いなぁ、ユリア」
建物側から声をかけられて、振り返って寮母のハリエットに向く。
「あ、おはよう」
「おはよ。今日が初めてなのに、しっかりしてるよ」
「いつも六時前には起きているから。……そろそろ?」
「いや。皆が集まってからだ。新学期に入ったばかりは
ハリエットの説明を聞いて、長期休暇の反動なのだろうとユリアは思う。
それからしばらく他愛ない会話を交わしていると、寮舎から子供達が出てくる。
しっかり覚醒している者から寝ぼけ
彼等の中にいる、軽い欠伸を右手で隠すマリリンは、ユリアを見た途端に笑顔を浮かべた。
「ユリア、おはよう」
「ん。おはよう」
にこりと笑顔を見せるユリア。
同じくマリリンの隣にいるノエは、眠気を感じさせない微笑でユリアに話しかけた。
「ユリアって早起きなんだ」
「習慣だから。ノエは朝練でどんな魔法を使うの?」
「風魔法。去年まで水魔法ばかりだったけど、新学期から違う魔法を使わないといけないんだ」
同じ魔法を使い続ければ、その魔法は上達する。しかし、他の魔法を使い慣れていなければ、必ず差が出て
よく考えられた訓練だと思っていると、ハリエットが両手を叩いた。
「じゃ、始めるぞ。ノルマは五分。あたしが良いというまで続けろ」
ポケットから懐中時計を取り出し、蓋を開けて時間を確認する。その動作に気付いた各々は、
マリリンとアンジェラは水魔法で水の球体を作り、ノエは
そしてユリアは……地魔法で重力を操り、一メートルの位置まで浮いた。
隣にいるノエはギョッとして、集中が途切れてしまい風の渦が消えてしまう。
「ユ……ユリア!? ど、どう、どうやってそんな……!」
「え? あぁ……地魔法で重力を操っているだけ」
「地魔法!? 風魔法じゃなくて!?」
驚愕のあまり取り乱すノエに気付いた彼等は、宙に浮かぶユリアを見て
「それより、手を止めていいの?」
「えっ? ……あ!」
我に返ったノエ達は、
一方、ユリアは彼等の魔法をじっと見つめて観察した。
これまで両親の魔法ばかり見てきたので、一般の子供が使う魔法に興味があった。
「――よし。ユリア、マリリン。お前達は合格」
ユリアは軽く着地して、マリリンは肩の力を抜く。
「疲れた?」
「大丈夫。ユリアは……平気そうね」
緊張も感じさせない涼やかな顔のユリアは、「慣れているから」と軽く笑って返した。
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