ある男の誓い
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永遠とも感じられる長い年月が緩やかに過ぎる。
季節が巡り、人の世が移ろい、多くの時間が流れていく。
母の胎を感じさせる空間に漂い続けている
切れ長に整った怜悧な目は
しかし、一瞬にして
ぎこちなく腕を動かし、心臓の上に右手を当てる。
畳まれて薄い棒状になっている二本の道具。
取り出すことなく触れると、男は
男のいる場所は、何もない仄暗い空間。
漂うように存在する男は、まるで水の中にいるように上体を起こした。
男は何度も、懐に入れている物に触れる。
その存在を確かめ――そこに宿るものが消えているという現実に直面する。
「――あぁ……!」
絞り出した声は掠れていた。
若々しい青年と表現できる声には、悲嘆の色はない。
むしろ――湧き上がるほどの歓喜に震えていた。
「やっと……やっとだ……! 嗚呼……この空虚が満たされる時が来た……!」
感極まって吐き出した想いは留まることを知らず、苦しいほど溢れてくる。
胸を抑える手ではなく、もう片方の手で目元を覆い隠す。
切なく細められた金色の瞳からこぼれた涙が頬を伝う。
幾筋もの涙の軌跡が、男の狂おしいほどの想いを表す。
「……
苦しそうな声は、悲しみを感じさせない優しさがある。
「だが、俺は……今度こそ……――」
愛おしい感情を
「――誓おう。我が魂を懸けて、護ると……!」
固い決意を声に乗せることで、心に、魂に刻み込む。
張り裂けんばかりの想いに焦がされた男は、母胎のような世界から消えた。
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