ある男の誓い

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 永遠とも感じられる長い年月が緩やかに過ぎる。
 季節が巡り、人の世が移ろい、多くの時間が流れていく。

 母の胎を感じさせる空間に漂い続けている白髪はくはつの男は、硬く閉ざしていたまぶたを震わせ、ゆっくりと開く。
 切れ長に整った怜悧な目は微睡まどろみから抜け出せず、色香がにじみ出る。

 しかし、一瞬にして愕然がくぜんと見開かれた。

 ぎこちなく腕を動かし、心臓の上に右手を当てる。
 若竹色わかたけいろの羽織の上ではなく、藍で染めた帯で締めた濃緑色のうりょくしょくの着流し。そのふところに手を忍ばせて、内側にある物を確かめる。
 畳まれて薄い棒状になっている二本の道具。
 取り出すことなく触れると、男は仰向あおむけになっていた状態から起き上がる。

 男のいる場所は、何もない仄暗い空間。
 漂うように存在する男は、まるで水の中にいるように上体を起こした。
 男は何度も、懐に入れている物に触れる。
 その存在を確かめ――そこに宿るものが消えているという現実に直面する。


「――あぁ……!」


 絞り出した声は掠れていた。
 若々しい青年と表現できる声には、悲嘆の色はない。

 むしろ――湧き上がるほどの歓喜に震えていた。

「やっと……やっとだ……! 嗚呼……この空虚が満たされる時が来た……!」

 感極まって吐き出した想いは留まることを知らず、苦しいほど溢れてくる。
 胸を抑える手ではなく、もう片方の手で目元を覆い隠す。

 切なく細められた金色の瞳からこぼれた涙が頬を伝う。
 幾筋もの涙の軌跡が、男の狂おしいほどの想いを表す。

「……めぐったなら、もう憶えていないだろう」

 苦しそうな声は、悲しみを感じさせない優しさがある。

「だが、俺は……今度こそ……――」

 愛おしい感情をはらんだ瞳が、そっと閉ざされる。

「――誓おう。我が魂を懸けて、護ると……!」

 固い決意を声に乗せることで、心に、魂に刻み込む。
 張り裂けんばかりの想いに焦がされた男は、母胎のような世界から消えた。


◇  ◆  ◇  ◆



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