魔力因子

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 この世界の生物のほとんどが魔法を発動するための魔力を持っている。
 生物が魔力を体内に秘めるのは、世界に偏在へんざいする魔力因子いんしのおかげ。一部を除く生物は魔力因子を吸収する体質を持ち、己の魔力に変換して溜め込む。魔法が不得意な獣人族を除く人族や亜族などは、体内で己の魔力へ変換した魔力因子を自在に操り、体外へ放出して魔法を発動する。

 この世界の魔力を持つ生物の生態のほとんどが、この流れに該当がいとうする。
 人族などの種族や幻獣は必要以上の魔力因子を吸収しない。しかし、魔物は周囲に充満する魔力因子を無際限むさいげんむさぼり尽くす。

 魔力因子が濃密のうみつに充満している場所は魔力地帯、魔力因子が生成される場所はパワーポイントと呼ばれるが、逆に魔力因子が薄くなった場所は枯渇こかつ地帯と呼ばれる。

 枯渇地帯は、魔力を持つ者にとって耐え難い環境だ。
 自動的に魔力因子を吸収して己の魔力を回復する環境に住む者が枯渇地帯へ行けば、消費した魔力を回復させることができない苦痛が襲いかかる。

 魔力は命。体力と同じく、魔力が底をつけば死に至る。
 たとえるとするなら、体力は生命エネルギー、魔力は精神エネルギー。
 生命エネルギーが無くなれば生物は死ぬ。しかし、精神エネルギーの場合は無くなったとしても死ぬことはない――と、詳しく知らない一般人は思うだろう。
 精神エネルギーは心身を形作るもの。それを失えば自我が崩壊し、廃人になってしまう。
 だが、魔力は精神エネルギーだけではなく生命エネルギーも含まれている。
 そのため、魔力が底を尽きかけると良くて廃人、悪くて生命活動が停止してしまうが、完全に魔力が無くなってしまえば、死を意味する。

 体力と同じく、魔力も休めば回復する。それが、この世界における一般常識。
 しかし真実は、生物は魔力因子が無ければ魔力を生産できないのだ。

 枯渇地帯に行けば魔力は回復できない。つまり、魔力を使い続けると命を落としてしまう。
 それだけではない。枯渇地帯が広がれば広がるほど世界の魔力因子のバランスが崩れ、魔力が無くなり、世界の均衡きんこうが壊れてしまう。
 世界が崩壊する原因を作り出す魔物は世界の敵。だというのに魔物は、魔力因子が充満する魔力地帯で生まれる。

 けれど、世界の膿である魔物にも弱点がある。
 それが、神聖な浄化の力を帯びるもの。

 例を挙げるなら、神や精霊の祝福や加護が宿った『宝珠ほうじゅ』と呼ばれる鉱物、神や精霊にゆかりのある場所で湧き出る『聖水』、そして光属性に特化した聖人が使える神聖魔法。

 どうして魔物は神聖な力を嫌うのかは、魔物が発生する原因となる魔力地帯の『よどみ』を浄化するからなのだと近年で解き明かされた。
 流れが滞って澱んだ魔力因子の密度が高い場所で発生する魔物には、その発生源を根元から消し去る力――神や精霊といった神聖な力が宿る物質や魔法など――が、倒すには一番効果がある。

 魔物は等しく光属性による神聖的な力を嫌う。それを知ったユリアは、泉の周辺の魔力因子を神聖魔法で浄化したのだ。
 言葉にするだけなら簡単だが、それを実現するには途方もない魔力と精神力が必要だ。しかも土地に根付いてしまった『澱み』をはらうには、数十年、もしくは数百年という単位を超える時間を費やさなければ、完全に元の土地には戻らない。

 だが、本来なら成し得ないことを、ユリアは一日の内に成し遂げた。
 それも、ほんの僅かな時間で。


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