プロローグ
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魔術師で名門の家元で生を受けた彼女は、幼くして天賦の才の持ち主だった。
魔術師としては、倫理観を持ち、優しすぎるという点は欠点だが、それを補う才能を発揮した。
一族の誰もが期待を寄せる中、ある日、ある勧誘を受けた。
「私の職場で働いてみないか?」
当時十三歳という若さで、魔術師の憧れである時計塔で次席を戴いていた彼女に、ある人物が声をかけた。
マリスビリー・アニムスフィア。天体科で有名な名門アニムスフィア家の当主であり、『人理継続保障機関フィニス・カルデア』の初代所長。
役不足だと思い断ろうとしたが、語られた未来を知り、協力することになった。
それから数年後。
「あなたに
二代目所長となったオルガマリーに出された診断により、協力は無駄に終わった。
――はずだった。
拝啓、お父さん、お母さん。
この手紙を書いている今、お二人はこの世にいません。
なぜなら人理が焼却されてしまったからです。
半信半疑だったアニムスフィアさんの予言じみた勧誘を受けたからこそ、私は今もフィニス・カルデアでスタッフとして働いています。
基本的に、人類最後のマスターとなった少年のサポート、及び治癒魔術による医療と、カルデアで召喚された多くのサーヴァントの霊基の修復が多いですが、サーヴァント同士の揉め事の解決から戦闘訓練に巻き込まれることも多少なりともあります。
正直に言って人類最後のマスターとなった少年が羨ましいです。私も彼らとともに冒険したかった。物語を紡いでみたかった。それが本音ですが、今となってはサポート要員で満足しています。
ただサポートするだけで無力と感じることもありましたが、皆さんのおかげで、今の自分に誇りを持つようになりました。
焼却された未来を取り戻して帰還できたら、お二人にこれまでの物語を語りたいです。
お会いできる日まで、頑張りますね。
敬具。
「――懐かしいなぁ」
かつて書いた家族への手紙。
クリプターによる
その中の一つである手紙を読み、切なさを含めた笑みを浮かべた。
「祈里さん。それ、手紙ですか?」
「ぅん? うん。両親へのね。出しそびれちゃって」
手紙を封筒に入れ直して、魔術で作った虚数空間の中に放り込む。
話しかけてきた少年「藤丸立香」を見れば、彼は申し訳なさそうに眉を下げていた。
彼の思っていることが手に取るように分かって、苦笑気味に言う。
「藤丸君はすっごく頑張ったよ。今回のことは誰のせいでもないんだし」
「……けど」
「けど、なんて言わないの。みんな頑張った。特に藤丸君は人理を取り戻して、今は異聞帯を攻略しているんだから。私達はあなたにばかり重荷を背負わせる気はないよ」
そう言って向き直り、藤丸の頭を撫でる。
柔らかな黒髪を撫でて、にこりと笑った。
「私にできることは少ないだろうけど、これからも一緒に頑張ろうね」
「……はい!」
力強く頷いた藤丸に、よろしい、と言ってはにかむ。
弟のような彼を支えるのが、今の彼女の役目。そんな目標を立てたのだ。
明るく笑い合う二人。それを遠くで見ているサーヴァントがいると気づいたのは、彼女だけ。
(まさか、こんなことになるなんてね)
胸中で独白した彼女――神永祈里は、人知れず溜息を吐いた。
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